龍は雲に従う
□第四章〜龍と雲〜
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黄龍は平安京のすぐ外を流れている鴨川までやってきた。そして草地に仰向け地に横になる。見上げた空は青く、雲一つない。
『…無理しなくても…いいんだよ』
新しい主人の、その言葉が、その諭す表情が、頭の中を何度も反復する。重ねて思い出されるのは、前主人との日々…。
「なんだよ…っ!俺の柄じゃねぇ!!」
むしゃくしゃして、腹立ち紛れに寝返りを打った。そこに、
「黄龍じゃないか。珍しいな。人前にめったに出ないお前がどういう風の吹き回しだ?」
頭上で急に声がした。コーちゃんが顔を上げて見てみれば、そこには豊かな髪を背中辺りで結わえた女性がいた。肩をはだけさせるような形の、赤い着物を身にまとっている。
突如出現した女。だがコーちゃんは特に警戒した様子を見せなかった。それどころか面倒くさげな顔をして、また視線を元に戻す。
「…なんだ、樺羅(から)か」
「なんだとはなんだ!ひどい奴だな」
樺羅はコーちゃんと同じ龍族である。本性は赤龍。昔、ある人間がくれた名が気に入り、その名を今でも使っている。同じ龍族だからか、昔から黄龍と赤龍は互いに気が合い、樺羅はコーちゃんの良き相談相手となっていた。
「で、今日はどうした?引きこもりは終わりか?ま、放浪癖の龍族であるお前が、あれだけ長いことあの湖でじっとしてたっていう方が意外―――」
「…術師に名前を付けられた」
「ふ〜ん、名前ねぇ・・・・・・って、えぇぇ!お前が!?」
「うるせぇ」
響いた樺羅の叫び声に、コーちゃんは顔をしかめた。だがお構いなしに、樺羅は喋り続ける。
「だってさぁ、気にくわない奴にはすぐに雷落とすお前にだよ!?…こんな世の中、たいした物好きもいるもんだねぇ」
「ハメられたんだよ。その主人が悪知恵の働く奴で―――」
「お前が単純なだけだろ」
「なっ…うるさい!!」
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