設定・外伝集

□天への願いを風に乗せ
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「御曹司ー!」

夜の帳が完璧に下りた直後という時刻、自室で読書に没頭していた少年は己を呼ぶ利発な声に反応して顔を上げた。頭頂で括られた銀髪が跳ね、銀灰の大きな瞳がきょとんと前を見据える。八歳程度のその子供は、少年と筆しつつもその顔立ちはあどけなく可憐で、まるで少女のようだ。名を銀珂、『御曹司』と呼ばれるところからも理解できるように、彼は属する白虎族、その族長の後継に当たる。
寝台と木製の机と二脚の椅子があるのみという簡素な部屋の中、机を隔てた向こうの扉の外から再び声がかかってきた。

「いらっしゃいますか御曹司?」
「いますよ。どうぞはいってください、ひえい」

銀珂がやや舌足らずな声で許可すれば「失礼します」と断りと共に扉が開かれる。部屋に入ってきたのは二十代前半と思われる若者。名を氷影といい、銀珂の世話役であり教育係であり、側近である。後ろでまとめられた銀髪はざんばらで、前髪は額にかかる程度から右にいくほど長くなるという不思議な形をしている。白を基調とした衣服は腹部と上腕がむき出しであり、腰帯で止められた垂には大極図が描かれている。銀珂に向ける晴れ晴れとした笑顔は、生来彼自身がかもし出す爽やかさに満ちていた。

「御曹司、この度の遠征で良き物を手に入れました故、是非お目にかけたく思った次第」
「ほんとですか!ぜひみせてください!!」

幼い銀珂にとって世界とは未知に溢れていて物珍しいものばかりである。新たな発見の喜びがあると思うといてもたってもいられない。銀珂は即座に書物を机に置くと席をたった。
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