設定・外伝集

□元旦の屋根の上
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日本の都、平安京は無事に年明けを迎えていた。一月となれば当時の暦では初春の初日に値する。だが名ばかり春になったとて数刻ばかりのうちに春の日差しが訪れるわけもなく、日はまだ白み始めたばかりで、都全体には寒さのために薄く白い霧が下りていた。

「今年は珍しいなー、雪が積もらないなんて」

平安京の一角にたたずむ菓子屋『五方庵』。その屋根で呟く少年の声が寒空の空気を震わせる。若草色の狩衣に黒い指貫という出で立ちの彼の名は、青月光元。屋根の上であぐらをかき、深く身を屈めている。彼の視線は遥か彼方、東の山の頂きへ。

「寒ぅ…」

縮こませた体を更に小さくして寒さから逃れようとする。白色の吐息が風で背後に流される。
霞んだ吐息が消えたその先で、人影が身軽に屋根へと飛び乗った。悠々とした態度で立ち上がり近づいてくるそれに、光元は振り向いて笑いかけた。

「おはよう、コーちゃん」
「コーちゃん言うな!」

やってきたのはざんばらな黄金の短髪に、同色の瞳をした青年コーちゃん。相変わらずの前半身をはだけさせ肩を剥き出した衣裳に紺の長布をかけた、凍死すると言わんばかりの寒さに適さぬ出で立ち。だが当のコーちゃんは全く気にならないのか平然としている。

「ひとつ年が過ぎたな」
「そうだね。あ、忘れてた!あけましておめでとう」
「あぁ」
「あぁ、じゃないでしょ。新年の挨拶くらいちゃんとしてよね、コーちゃん」
「くだらねぇ事に言霊使うんじゃねぇよ。…あけましておめでとうございます」
棒読みの気だるげな挨拶だったが、光元は満足したのかひとつ笑顔で頷いた。



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