設定・外伝集

□幼少綺譚〜白虎奏伝〜
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晴れ渡った青空の下、それに負けないほど青い蒼い大海が広がっていた。さまざまな海鳥が旋回し、海面には魚影が踊る。
その海を白い波をたてながら斬るように進む六つの大船があった。純白の帆が風を受けて大きく広がり、軽快な速さで船は進む。大船は金属で覆われ、舳先は全て槍先のように鋭く突き出ている。相手の船に突進し進軍の足となり、相手によれば突き崩すほどの威力を持つその船の名は『崩牙(ほうが)』。その大きさと攻撃力に相手となった者は皆怯える。だが、更に恐れられるのはその船を操る者達だ。

船上では男達が縄を張ったり舵を回したりと目まぐるしく働いていた。皆、表情を嬉々とさせている。男達は皆銀髪で、青に近い灰色の瞳をしていた。その一族の特徴なのだろう。
この一族こそ随一と名高い戦闘種族『白虎』の一族。戦を好む彼らは皆してたくましい体付きをしている。

前方を一望できる甲板に立ち先を見据えるのは、その中でも頭二つほどもとび抜けて背の高い男。筋骨隆々とした肉体の上に銀の鎧を纏う精悍なその容姿は、まさに偉丈夫の名に相応しい。両脇に流された肩にかかる程度の銀髪の間で前を見据える顔立ちは厳格そうだが、対してその銀灰色の瞳は柔和な色を帯びている。

「流剛(るごう)殿、この度の戦も見事でございました」

男の隣に二十代前半と思われる若者が歩み寄り、一礼する。後ろでまとめられ首筋に触れる程度になった銀髪はざんばらで、前髪は額にかかる程度から右にいくほど長くなるという不思議な形をしている。白を基調とした衣服は腹部と上腕がむき出しであり、腰帯で止められた垂には大極図が描かれている。なんとも動きやすそうな軽装だ。若者は拱手の姿のまま口を開いた。

「先陣をきる流剛殿に皆の士気も上がり申した。この氷影(ひえい)、こ度の戦を忘れませぬ!」
「皆のお陰だ。皆よく働いた。そういえばお主はこれほどの大戦は初めてだったな。だがこれ位で驚いていてはならぬ。これから更に大きな戦なんぞ山ほどあるのだからな」
「はっ!」

流剛の言葉に氷影は再び頭を下げた。

「それに致しましても、いつにも増して流剛殿の気迫は凄まじゅうございました。相手の兵が怯えきっておりましたぞ」
「うむ、急いで帰らねば『あいつ』が怒るからな」

流剛が苦笑いを浮かべる。

「・・・奴の怒りを買うと後が恐い」
「奥方様ですな…」

なるほど、と言うように氷影が何度か首をゆっくり上下に振り同意を示す。どうやら『奥方様』というのは彼らの中で敬意し、そして畏怖すべき、逆らえない存在らしい。

「…そういえばそろそろでしたな、奥方様と御曹司が『人化(じんか)の儀』より帰って来ますのは。早急な帰国はその為で?」
「まぁな」

流剛が頷いたその時、風の勢いが増した。船の進みが速くなる。

「奥方…沙耶姫(さやひめ)殿の風が迎えに参りましたな」
「さすがだな、もう儂らの帰還に気付いておるか…」

船団は、強風に導かれて大海原に浮かぶ島へと向かっていた。


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