虎は苛政よりも猛し
□第五章〜覚醒〜
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疾駆してきたクーちゃんと光元が石畳に足音を響かせると同時に、二人の体に猛烈な突風が吹き付けてきた。
「ぬ…」
「か、風強っ…!」
思わず足を止め、顔前に袖をかざして風を防ぐ。
「何なんだよぉ〜」
うっとおしげに呟きながら、光元は乾いた目が浮かべた涙を拭いた。鮮明になった視界がようやくその場の情景を捉える。
「…これがシーちゃんの言ってた、黒蛇族の決闘場?」
「のようだな。しかし、こんな空間にこの風の勢いはありえない…」
「あ!あれ見てよクーちゃん!!」
クーちゃんが光元の指差す先を見れば、白い姿が湖の前で不自然に揺れ動いていた。
「シー…」
白虎のシーちゃんが、銀の扇を手に舞っていたのだ。白い喉に仰け反らせ、扇を横に振りぬく。その痩躯から妖気が沸き上がり、新たな気流が生み出されるのが感じられた。銀糸の長髪が巻き上げられる。
その荘厳な舞を、思わず二人は呆然と見つめる。
「なんでシーちゃんは舞を…?」
「オレにも判らん。何か理由があっての事だろうが―――」
「ククク、見事ですねぇ…」
「「!?」」
後方からの見知らぬ声に二人は素早く振り返る。紫の長衣を纏う黒髪の男が、段差となった客席の一角に足を組んで腰掛けていた。青白い肌に対して不気味なほどに紅い口唇が吊り上がる。
「白虎族でも限られた者にしか伝えられぬ一子相伝の秘技『風舞』…。まさかこの目で見ること叶うとは…」
相手をゆるりと締め上げるような声音。悪寒を背中に感じながら光元が男に向かって体の向きを変え、警戒の意を込め落とした声音で問う。
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