虎は苛政よりも猛し
□第二章〜交錯〜
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「ただいまー!」
軽やかな足音がして、五方庵に一人の少女が駆け込んできた。朱色の短い癖毛と瞳をしている。
「シューは元気ねぇ」
続けて入ってきたのは、青海色の長髪と瞳をした美女だった。彼女は屋内にいた三人の男達を見つけ、頬笑んだ。
「ただいま皆。遠方任務完了よ!」
すると光元も笑みを浮かべた。
「シューちゃんにセーちゃん、三日掛けの任務ごくろ―――」
「セーーーぇぇぇ!!」
光元の言葉をかき消す程の大声をあげて、クーちゃんがセーちゃんに飛び付いた。
「セー!何処に行ってたんだ!?何処にも見つからないからオレは…オレは……」
「……ま〜た始めやがった」
泣きじゃくるクーちゃんを、壁によりかかったコーちゃんが白々しい目で眺めている。普段常識人なクーちゃんが、愛人であるセーちゃんを前にすると人が変わることに、すでに同胞達は慣れていた。
「ねぇねぇコーちゃん」
「んぁ?」
呼ばれて視線を下にやると、シューちゃんがコーちゃんの服の端を捉まえて注意を促そうとしていた。
「あの人だぁれ?」
「離せ!離しやがれ!」
シューちゃんの指差す『五方庵』の四つ角の一で、椅子に座り縄で縛られた男が騒いでいた。
「光元曰く『証拠物品』だとよ」
「しょうこぶっぴん?」
「悪いことした奴、てことだな」
「ふぅん」
何処か説明文としては間違っているが、シューちゃんは納得した。
「検非遣使に引き渡さなくていいの?」
「今回は僕達の管轄だからね」
更なる問いに、隣で聞いていた光元が頷いた。
「ただの野盗ならともかく、妖刀持つなら異形関連でしょ?」
「よーとー?」
「どうでもいいが、とにかく吐かせりゃいいんだろ?」
おもむろにコーちゃんが、男の襟を掴んで持ち上げた。騒いでいた男が押し黙る。
「ゴホッ…なにを…」
「黙れ。そして吐け。てめぇ、何の目的があって道長を襲った?」
「コーちゃん、矛盾してるよ。それと手荒いのはダメだよ!」
「なんだよ、悪ぃか?」
「なるべく平和的に解決しないとね。ま、止音の符使ってるから、騒ごうが喚こうが聞こえないけど」
それは遠回しに、殴っても蹴ってもよいと言っているようなものではなかろうか。
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