最奥の社

□獲物捕らえし蜘蛛の糸
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「さぁ、始めるか」

白虎族族長は大斧を手に取り…、



「さて…始めるとするか」


黒蛇族族長は長剣の鞘を腰にさげる…。



兵士達が戦陣を組んだ両端で、同じ号令が轟いた。

『攻め立てよ!!』

双方の戦士達が鬨の声をあげ、一斉に得物を掲げ、勝利の為にと地を駆け始めた。



快晴。雨の予感など微塵も感じさせない青空の下、草生い茂る原で今、黒蛇族組する軍と白虎族組する軍の主力がぶつかった。



***





交じり合う得物の噛み合う音。あがる悲鳴、そして怒号。

それら戦の音を遠くに、黒蛇族組する側の国王軍本陣はビリビリとした緊迫感を帯びていた。
長大な木の杭で周囲を固めた本陣。内側には幕舎と兵糧庫がある。戦士達の帰る場所と確立された食料。司令塔である本陣は死活に関わる重要な場所であり、それらを守る兵士達も多い。

そんな本陣最奥で、鎧姿の国王は鞘に入れた剣先を地面に立て、直立している。顔は緊迫と苦渋。両脇に立つ二人の護衛兵は、それを感じて落ち着きなげに目をそわそわと動かしている。
報告によれば、相手の軍は戦力に白虎族を交(まじ)え、連合し戦っているという。自軍にも黒蛇族が参戦はしているが、白虎族と比べればその数は少なく、何より調和性が皆無であった。国王に黒蛇族まで統括する力はなかったのだ。
有利だった兵力も士気も、一気に逆転してしまった。しかも圧倒的に。苦面(くめん)も否めないだろう。

黒蛇族と出会い、異形の脅威は心得ている。正直すでに勝てる見込みはなかった。軍を撤退したいのだが、これは国境を巡る重要な戦。すぐ先には都もあり、逃げるわけにはいかない。民(たみ)のため、国の誇りのため、ここで戦わねばならないのだ。

国王のそんな心の束縛を知る護衛兵達は、奇跡でも起こりはしないかと望めそうにない事を内心で切望した。と、突如近づいてくる複数の馬蹄が響く。状況を伝える伝令兵にしてはその数が多い。響いた警告のホラ貝の低く鈍い笛の音。王は、はっと顔を上げ、身を固くした。恐れるべき事態が、起こった。

敵の奇襲だ。兵数は多いと言っても戦闘の主力は前線にある。援助は見込めない。

「敵襲ぞ!!門を固めよ!!」

即座に命令を飛ばせば、次々と守備の為に兵士達がたちまち門に群がる。集められる限りの人数の兵士達が、門に板をわたして防護を固め、武器を構える。

雷鳴のような蹄の音が、門前で止む。兵士達は次に来る衝撃に備えた。門を越えさせれば、自軍の負けは決まる。門扉に身体を押し当て、少しでも衝撃に耐えうるように備える。
刹那、腹の底まで響く轟音。門の脇を固めている連なった木柱の柵の一箇所で爆発が生じ、突如柵が爆砕さ大穴を空けた。唖然とした兵士達がギョッとした目付きで見つめる白煙の先から何頭もの馬、そしてそれにまたがった騎士達が飛び込んでくる。その騎士の誰もが、白銀の髪をしていた。

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