発つ鳥跡を濁す

□第七章〜終焉〜
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山中の突き出た丘。青月光元はそこから朱雀の村を見下ろしていた。後方からコーちゃんとシューちゃんがやってきたのに気付くと、振り返って微笑んだ。

「おかえり。ほかの皆は辺りの異形退治に行って―――って聞いてる!?」

シューちゃんはわき目もふらずに光元の横に並び、眼下に広がる村を見下ろす。いつもと違う彼女の様子に、光元は何かあったのだと気付く。と、その時、おもむろにシューちゃんが弓矢を出現させた。そしてつがえ―――放った。

矢は藁葺きの屋根に突き立ち、炎を上げた。藁の上の炎は簡単に燃え広がっていく。さすがの光元も驚愕した。

「ち、ちょっとシューちゃ―――」

止めようと伸ばした手は、届く前にコーちゃんに止められた。

「好きなようにさせてやれ。たぶん・・・シューのけじめなんだ。これが」

無人となった建物は、異形の巣となる場合がある。まして人の寄らぬ山中の家屋なんぞあっても仕方のないものだから、光元も取り壊すつもりであった。だが、そうは言ってもシューちゃんの故郷だ。彼女に拒められれば、二の足を踏んだかもしれない。





自分の手で故郷を消す。これは『後戻りしない』の意思表示。
そう光元は悟った。





世の中には『発つ鳥跡を濁さず』という言葉がある。立ち去る時はよく始末すべきということわざであるが、はたして村一つ焼き払う事が『濁さず』と言えるであろうか?

「まぁ、いいんだけどね・・・・・・」

何年かは草木が生えないかもしれない。黒く焼けた大地を緑が覆うまで、長い時がかかるかもしれない。それでも、それで彼女が立ち直れるなら、それでもいいかもしれない。そう思える。

「光元!コーちゃん!」

最後の矢をつがえながら、シューちゃんは二人を呼んだ。その声は先程兄を亡くしたとは思えないほど、覇気のある声だった。


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