発つ鳥跡を濁す
□第四章〜過去〜
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大きな山があった。その山は農道から離れている為、人の手が加えられることはない。満足な道はなく、よく茂った森は何処か薄暗く、それが、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせていた。
しかし、その山の中腹には、小さいながらも集落があった。
藁葺きの家が二十ほど立ち並び、四方には物見やぐらがある。獣避けのためにか、その家々を囲むように背の高い木の杭の柵が設けられ、一方のみに外へ出る為の門がある。
それが朱雀一族の村であった。
その唯一ある門に寄りかかるようにして、一人の男が立っていた。その男は、こちらに向かってくる足音を聞き取っていた。
「耀〜!」
名前を呼ばれて、男は橙色の双眸を向ける。
嬉々とした表情で駆け寄ってきたのは彼の妹、朱夏。耀の瞳より濃い、真紅の瞳は期待と喜びに満ち溢れていた。
耀と朱夏は、誰もが羨むほど仲の良い兄妹であった。
駆けてきた勢いそのままに胸元に飛び込んできた朱夏を抱きとめて、耀は優しく笑いかけた。
「今日から三日間、一人だな、朱夏」
「そうだよ〜!一人前になる為に頑張るんだよ〜」
それは朱雀一族の、大人の仲間入りをする為の儀式であった。三日間一人で山に篭もり、修行をするというものである。この儀式は、年代で行われるのではなく、力の度量によって行われる時が決められていた。
「朱夏、お前は最年少なのだそうだ」
「そうなの〜?」
「あぁ、我より早いということだ」
今までの最年少記録は、耀が持っていた。しかしそれは、朱夏によって塗り替えられることになった。それも、耀が行った年齢より、はるかに幼い年齢で。それ程の力を、朱夏は持っていた。
「やった〜!耀に勝った〜!!」
しかし本人は、まだそれがどれほどの事を意味するのか自覚していないらしく、ただ無邪気に喜んだ。そんな朱夏に苦笑して、
「さぁ、行け。日が暮れるぞ」
「うん!たった三日だもんね〜!行ってきます!!」
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