発つ鳥跡を濁す

□第二章〜朱雀のシューちゃん〜
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シューちゃんは、とある建物の上で異形と対峙していた。
相手は針のような剛毛を持った巨大な灰色の犬の化け物であった。その体からは絶えず妖気が漏れ出し、シューちゃんの衣服をはためかせている。
しかし、シューちゃんは全く恐れていなかった。それどころか、赤いその瞳は初任務の響きに嬉々と輝いている。

犬の異形が、シューちゃんに向かって、ごうっ、と吠えた。そして走り出し、前足の爪でシューちゃんの喉笛を狙う。

刃物を連想させる長い爪が裂いたのは―――何も無い空間であった。空振りしたそれは下の藁葺きの屋根を存分に切り裂く。その場にいた倒すべき獲物は、忽然と姿を消していた。犬の異形は首を廻らせてそれを探す。

「相手は選ばないとダメだよ〜」

シューちゃんは一つ屋根を隔てた向こうにいた。どうやら瞬間的に移動したらしい。

「毛中の異形は、火気に弱いんだから〜」

そう言うと、シューちゃんは右手を前に突き出して、握りこんだ。

「やみよにはえるかがりびのごとく、もえさかれ!れっかしょうらい!!」

舌足らずな呪文と共に火気が右手に集中し、炎の渦を作り出す。犬の異形はそれを見ると、威嚇するように体中の毛を逆立てた。そして尾をユラリと振る。すると、付近にいくつもの水球が浮いた。
水気は火気を克す。相性的にはシューちゃんの方が不利である。だが、

「まだまだだね〜〜!」

シューちゃんは、右手を左から右へ薙いだ。炎の渦が帯状に広がり、犬の異形に向かって飛んだ。犬の異形はそれにいくつも水球をぶつける。だが、どれも勢いを殺すことも出来ずに蒸発していく。

―――やられる!―――

何よりも先に本能がそれを感じ、炎が当たる間際に飛びずさった。おかげで直撃は逃れたものの、熱風の余波で屋根を転げ落ちかける。炎の当たったその場所は、激しく炎上し更に拡大を始める。
相性の良い水気の術で応戦したにもかかわらずこの威力。犬の異形の瞳に、恐怖の色が映った。

―――敵うはずがない・・・逃げなければ。―――

犬の異形はシューちゃんを水気の術で牽制すると、背を向けて屋根を渡り逃げ始めた。


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