電話越しな彼ら。
美柴鴇Ver.
俺はどれだけの時間この体制で居るのだろう。
何をするでもない。ただ携帯と睨み合っていた。
いや、この表現は正しくないのかもしれない。何故なら俺が一方的に携帯を睨んでいただけなのだから。
何故こんな事をしているかと言えば、何とも情けない、理由と呼べるのかも分からないような理由からだ。
これでも俺には恋人と呼べる相手が居る。
昨日はゲームがあり、そのゲーム内で酷くはないが皆少々の怪我をした。手当ては家でしようと思い、家に帰れば恋人が居て俺を見るなり血相を変えて心配した。
『だ、大丈夫ですか?』
『あぁ、大したことない』
『でも、血がっ、』
『大丈夫だ、お前には関係な…』
そこまで言ってハッとした。俺としては心配されるのに慣れていなくて、そこまで心配するな、と言うつもりだったのに口から出た言葉は裏腹で、彼女を容赦なく傷つけていた。
『ごめんなさい…』
そう悲しそうに、苦しそうに言う彼女に謝らなければならないのは俺なのに、俺の口からは何も出てはこなかった。
そしてそのまま帰宅した彼女の背中を見送り、このままでは駄目だと連絡を取ろうとしているのだが。
「…‥」
正直なんと声を掛けるべきか。否、電話ではなく会いに行くべきか。
そして考えは冒頭に戻り、ただ携帯を睨んでいる。
アイツのあんな顔は見たくない。アイツは今頃泣いているんだろう。俺はアイツを笑顔で居させてやることも出来ないのか。
そんな事が頭の中で駆け巡り、気付けば携帯を手に、足は玄関へと歩いていた。
迷ってるなら両方やってしまえばいい。アイツは驚くだろうが、その顔ごと抱き締めてやる。そして伝わればいい。俺の全てが。
しばらくの呼び出し音。
足は止まることなく進み(むしろ駆け足になり)もうすぐアイツの家だ。
そこで、聞こえた。
鼻をすすって、少し暗めな声。やはり泣いていたらしい。
第一声は優しく、優しくと心掛けたがそれは無意味に口から出た言葉は簡潔に、いつも通りだった。
もしもし、俺だ
(こんな事を言いたいんじゃない)(なのにお前何故)(嬉しそうに笑う、)
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