小説
□『桃』 さん
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太陽の光でもなく。
鳥の囀りでもなく。
「ぎゃあああああああ!」
甲高い子供の声によって、目を覚ますなどと誰が予想出来ただろうか。
青空よりも深く、海よりも澄んだ青い髪は相変わらずで。
服装もその身体にはきちんと合っている。
けれど、ほんの数センチしかなかった視線の差が十センチ…否、三十センチ近くある。
「……将、臣…?」
早朝だというのに眠気などどこかに吹き飛んでいた。
雅は目の前で起きている光景に頭痛がする。
「みやび……」
普段よりも高い、まだ変声期を迎えていない子供の声。
若干大きな目に、やんちゃさと幼さを見せる顔立ち。
そう、将臣は子供の姿になっていたのだ。
年齢は小学校高学年とまでいかない十歳程度で。
因みに、昨夜同様木に背を預けている知盛も中学生二年生程の姿で今も尚眠っている。
(頭いてぇ……)
夢なら醒めてくれ、と今程願った事はないかもしれない。
そして、今頃笑っているであろう男を恨む。
「あー…取り敢えず、落ち着け」
「どうしてお前は落ち着いてられんだよ!」
ずきずきと痛む頭を支えつつ、雅は将臣を宥めようとした。
だが、あまりの己の現状に混乱している将臣は、折角この騒ぎの中でも眠り続けていてくれている知盛を起こそうとする。
「ちょ、っ! 将臣……ッ」
「うわ…っ」
阻止せねば、と反射的に雅は将臣を後ろから抱き上げてしまう。
彼の今の年齢からしては決して軽くはないのだろうが、それでも普段の彼の重さを知っている身としてはひょいっと軽々と持ち上がってしまった事に驚く。
それはどうやら将臣も同様で、目を見開いて息を呑んだ。
生憎と小学校は同じではなかった為、懐かしい身長とは思えないが。
二十歳の腕には十歳の身体はすっぽりと収まってしまう。
三十センチ近い身長差を改めて大きいのだと実感する。
「…っ! 降ろせ!」
じたばたと腕の中で暴れられ、痛くないと言われれば嘘になるが、自然と頬が弛んでしまう。
身体だけではなく、筋力も年相応のようだ。
衣服まで小さく、その身体に適しているのは些か謎でがあるが、けれど言える事は一つ。
(知盛はまあ…大丈夫だとしても)
将臣は戦力外と考えた方が良い。
今すぐにでも戻り、清盛に文句をつらつらと述べてやりたい気持ちはあるものの。
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