小説
□『可愛いあの子がお酒がお好き?』
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『可愛いあの子がお酒がお好き?』
時は夏の夜。
昼間の暑さが嘘のように、夜は涼しく心地よい風が頬を撫でる。
鳥達は寝静まり、虫もまだ鳴かぬこの季節程、宴を行うに相応しい頃はないだろう。
けれど、今は宴などされてはいない。
されているといえば、そう…酒を飲み合うぐらい、か。
こぽこぽこぽ…と、透き通った酒という名の水を注ぐ。
それをくいっと一口。
「お。良い飲みっぷり」
将臣のその姿にまだ未成年だが、という小さなツッコミはしないでおこう。
先程から注いでは飲み、注いでは飲み、を繰り返している。
無論、会話はあった。…あった、のだ。
「クッ……今宵の兄上は如何されたものか」
同様に酒を飲んでいる知盛も、将臣の飲みっぷりには少しばかり不思議がっている。
だが、口調はからかい気味だ。
「うるせえ…ッ。ひっく……」
「あ、酔った」
「酔ってねぇえ!」と将臣は頬を膨らます。
顔は仄かに色付き、目はとろんと蕩けている。
その状態のどこが「酔っていない」のか、些か疑問ではあるが、問えば逆にややこしくなるだろうと敢えて言わない。
しかしいったい、どうしたものか。
今日は少し遠出していた知盛が帰って来たという事で将臣が誘って来たというのに。
肝心の将臣がこんな状態ではここでお開きだろうか。
そんな事を考えていると、ふと、将臣が徐に立ち上がった。
そして、知盛の前に立ち――抱き付いた。
あー……)
抱き付いたというよりも、倒れ込んだというべきか。
しかし、将臣は両手を大きく広げて前に倒れ、そして知盛の首に腕を回している。
これは抱き付いているとしかいえない。
しかも露になっている知盛の首元に顔を埋め、擦り寄っているようにも見えた。
その姿はまるで…。
「猫、だな」
将臣はどちらかといえば、犬のようなイメージを抱いていたのだが。
けれど今の彼は猫だ。それも、かなり甘えたがり屋の。