首無騎士

□愛し愛され愛されず_イザ→シズ→トム
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 ――ただあの人を守りたくて。
 ――ただあの男から奪いたくて。


 カーテンも閉められ、明かりの灯っていない部屋は暗く。
 静雄が動く度にベッドのスプリングは悲鳴を上げる。
 唇を噛み締め、静雄は下を見下ろす。暗い部屋だが下で寝ている男の赤い目が笑ったのが見えた。
 舌打ちしようものならば掴まれた腰を大きく動かされ、出したくもない声が出てしまう。
 対して男は…臨也は酷く楽しげに咽喉を鳴らして笑うのだ。


「シズちゃん、止まってるよ?」


 ちゃんと動いて。と強請るような声に吐き気がしてならない。
 普段であればこんな奴殴って…いっそうの事、殺してやりたいのに。
 出来ない現実を、だからといって嘆く訳にはいかず。

 射精を耐える為に自然と身体は前屈みで。容易に臨也の手は静雄の頬へと伸ばされる。
 それを叩こうものならば臨也は笑みを浮かべた上体で静雄の先走りを流す陰茎を握った。


「――アっ…は、や…めろ……!」
「だったら動いて。ねえ、シズちゃん…?」


 言葉にせずとも静雄の耳には臨也の言葉が届いてしまう。
 ――自分に逆らえばどうなるのか、と。
 何をされようと自分は耐えられる自身があった。特にこの男の行動には。
 けれどそれによってあの人が傷付けられ――いや、違う。あの人に知られたくないのだ。
 知られて、嫌われたくない。あの人は優しいからきっと知らぬ素振りをしてくれるだろう。けれど、それに耐えられる自身はない。

 耐えられなくなって、きっと自分から離れてしまうだろう。

 静雄はくぅ、と目を細め、唇を噛み締めた。
 そして目を閉じ、ゆっくりと腰を動かし始める。
 自らの蕾に納まる臨也の陰茎を雁首のぎりぎりまで抜き、再び迎え入れる動作は屈辱でしかなく。
 しかもゆっくり動かそうものならば、臨也は不満げな顔をして動き始めるのだ。

 出たくない声が出てしまう。それはこの男からの快楽に身体が喜んでいるようで。
 歯軋りが鳴る程に食い縛れば笑みを浮かべた臨也はもう一度頬へ手を伸ばす。今度は振り払えなかった。


「本当に健気だよね。いっそうの事、目隠しでもして、俺を彼だと勝手に妄想すれば良いのに」
「―――ッ…!」

 
 目を見開き、臨也を鋭く睨みつける。けれど臨也は笑みを深めるだけであった。
 悔しい。今の感情を表現するならばその一言に尽きるだろう。
 こんな男の命令を聞かなければならない現状と、それだけの理由を握られている自分。
 握られた陰茎を上下に擦られ、時折爪が雁首と亀頭に立てられる。
 じんわりと熱くなる体。背筋を奔る快楽という名の疼きは少しずつではあったが吐き出される息に熱を込ませていた。
 ぐちゅぐちゅと響く水音はいったい、静雄のどちらの部位から漏れる音か。
 次第にぼやけ始める視界から逃れるように、静雄は目を閉じた。


(…馬鹿みたい……)


 臨也は自身の身体に跨り、快楽に負けぬと意地を張る静雄を見上げる。
 ぎし、ぎし、とぎこちない動きは酷く不愉快で。いっそうの事こちらから仕掛けてやりたいとさえ思ってしまう。
 だが、それでは意味がないのだ。


(あんな男に知られたくないからって)


 殺したくない自分の命令を素直に聞く程に、大事だとでもいうのだろうか。
 屈服させている筈なのに、何故こうも不愉快で不満なのか。
 陰茎は勃ち上がり、静雄の体内の熱は想像以上に心地好い。けれど頭は酷く冷め切っていた。
 予告無しに腰を動かせば咽喉を通った甲高い声。
 亀頭から溢れる先走りという名の涎は臨也の手を濡らし、波打つ陰茎の鼓動もはっきり感じる。
 だのに、けれど。


(ほんと…、むかつく……ッ!)


 脳裏を過ぎった映像に臨也は激しい舌打ちをする。
 握った陰茎からは手を離し、筋肉はあるものの細身な腰を掴むと乱暴に静雄を揺らし、同時に自分も動く。


「ヒィっ、ン! いざ、…て、……めェ……――っァア!」


 背中を弓のように反らし、咽喉を引き攣らせながら静雄は天井を見上げ達する。
 上げられた悲鳴は静雄だけではなく、スプリングも甲高い音を発し。
 ぱたたた、と溢れ出した白濁物は静雄の下に寝ていた臨也の首元にまで飛び掛っていた。
 達した事による痙攣で静雄の体内は激しく伸縮を繰り返し、その勢いに臨也も体内に吐き出した。

 荒い呼吸を繰り返しながら鋭い視線を静雄は臨也へと向ける。
 視線に込められた感情は怒りのみ。だというのに笑みが浮かんでしまう。


「ふふ…、そんな怖い顔しないでよ」


 どんな理由や感情であろうとも、静雄の意識も視線も常に自分へ向けられているべきだ。
 臨也の赤い目は色を濃くし、目元は不適な笑みを浮かべる。
 怒りに満ちていると知っていながらそっと静雄の頬に手を寄せ、撫でるように触れ。


(全部、俺に見せてよ)


 ――先輩だというあの男の前でだけ、俺の知らない表情を浮かべるなんて、許さない。

 臨也はどす黒い思考を誤魔化すかのように、胸に散らばる静雄の精液を指で取り、舐めた。





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