他作品

□始まって、始まった。
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 初恋は実らない、とはよく耳にする言葉だ。
 憧憬から生れる愛だの恋だの、そういう事は多々経験あるが、一目惚れは初めてで。
 これは初恋とでも言うべきか。
 2度目3度目の恋ならば叶うという訳ではないにせよ、少しでも可能性を大きくしてくれるものであるならば。
 綺麗な響きを持つ初恋と称されるよりも、普通の恋と呼ばれた方が良いと思えてしまう自分は、酷く歪んでいるのだろうか。


 両親は自分が生れて間も無く他界した。かなりの年齢差があり、元々周囲から反対されての結婚は、少ない親戚達にしてみれば面倒な事で、生後間もない自分を育てようという優しい存在はいなかった。
 後は孤児院か、という時に手を差し伸べてくれたのは、1年の殆どを海外で過ごしているという父親の親友で。
 自分の孫とも言える年齢の自分を養子として家族に迎えてくれた。
 ガープという大柄の男は昨年妻を亡くし、1人息子は既に結婚し、傍から見れば祖父と共に暮らす孫にでも見えただろう。
 だが、生憎とガープは優秀な人物らしく、1年の大半は世界中を駆け巡っている。小さい頃はそれで構わなかったが、保育園必要とし始めた頃、この生活では禄に友人も出来ないから、とガープに酷く懐いていた彼の甥に当る、シャンクスという当時中学生の彼に預けられた。
 まさか中学生に子供を預けるとは、と誰もが思っただろうが、下手な大人に預けるよりは安心だろうし、自由奔放過ぎて実の親すら手を焼いている彼の抑制剤になればという意味もあった。
 その半年後、自分にはもう1人家族が増える。
 名義上では兄に当るドラゴン――年齢的にそうは呼ばないが――の息子がその中に加わったのだ。
 別に他界したとか、そういう理由ではなく、ドラゴンはある種ガープ以上に忙しい人間で、妻もそのサポートに手が掛かり、要するに子育てする時間がない。単純な理由だ。
 最初は不憫な子供だと、幼心にそう思ったが、今にして考えればこれで良かったのかもしれない。

「エース!」

 あれから16年、あの小さい赤子は自分を呼び捨てにするも兄と慕ってくれている。
 シャンクスも彼の父親が経営し、倒産寸前であった会社を甦らせるという功績にかなりの知名度を持つ存在になっていた。
 2人ともテンションが高く、周囲の人間には迷惑を掛けてばかり。
 各自の年齢を考えると兄弟と取られても仕方がない自分達三人は、よく真ん中の子はしっかり者に成りやすい、という言葉の通りになっていた。

 そんな自分も小中と過ごし、色々と経験している。
 今はシャンクスの友人で、実は中学の頃から軽い手伝いをしていた居酒屋で正式なバイトとして雇われ、高校が終った後だとか、土日にシフトを入れて働いていた。
 そんなある日、シャンクスが人を連れて――主に彼を支える副社長であるベンさんだが――バイト先に来た。
 高校からの友人だという人物が無事、昇格しただのの祝い事らしい。単にシャンクスが酒を飲む理由が欲しかっただけ、と言ってしまえばその通りになるだろう。
 何故そう思えたのか。もしかすると本人もそう思っているかもしれない。だが、エースは素直にそれを否定した。
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