朝焼けの館

□子羊の誘惑
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練習が終わって、ベンチに戻ってくると、芥川はさっきの姿勢のまま寝息をたてていた。
夕陽に、金髪が透けて、黄金色。
何を思って俺を追い掛けるのか、閉じた瞳は真意を語らない。

「おい芥川…起きろぃ」
ぐりぐりと撫でると、眠そうにぼんやりと瞳を開ける。
「あー…丸井くん。練習……終わったの?」
「おう」

きょろきょろと辺りを見回して、寝ぼけ顔でふんわり笑う。
「じゃあ、一緒に帰ろう?」
「おう。…って、オマエは東京まで帰るんだろうが」
「えへへ、そうだね〜」

かき乱される、この笑顔に。
そりゃそこらの女より瞳はでかいし、顔だって整ってる。
でも男だぞ?
真田と柳みたいには、割り切れねぇよ。

「……丸井くん、どしたの?」
「なんでもねーよっ」
がしがし撫でると、また笑う。
何がそんなに嬉しいんだか。
「オマエさぁ、さっき…」
「なに?」
「仁王になんか…聞かれてたろ、その…」
「ああ、うん」
合点がいった、といった顔でぽんと手を叩いた。

「だって、俺は丸井くんの事、好きだもん」

ぱっちり開けた瞳の向こうで、その言葉がやけに重く響いた。
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