朝焼けの館

□月下慕情
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三日ほど、家を留守にした。
それは単に呼ばれたからであって、他意は何もない。
学校じゃそれなりの立場がある俺だが、家じゃただの中坊だ。
月曜日には帰ってくるからよと言っても、電話の向こうの相手は寂しそうな声を出した。

『景ちゃん、早う帰ってきてや。俺、こう見えてもけっこう寂しがり屋なんやで?』
「わかってるよ」
くそっ、その可愛い事言う唇を、今すぐ塞ぎてぇ。
目の前じゃいつもは言わないくせに、会えない時に限ってそんな事を言いやがる。
ポーカーフェイスに翻弄されてるのは、俺の方なのか?
「帰ったら……存分に甘やかしてやるよ」
ちゅっ、とわざとらしく音をたててやると、電話の向こうで息を飲むのが聞こえた。
『……』
しばらくの沈黙の後、忍足は恥ずかしそうな声で呟く。
『…景ちゃんひどいわ。その気に…なってまうやん』
電話越しのあいつは、俺だけに見せる顔で照れてるに違いない。
そう思うと、早く帰りたいと思う気持ちが募った。
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