朝焼けの館

□桜の愛し君
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……手を繋いで帰る道。
温もりが心地よく、照れくさい。

「まさかお前から告白されるとは思ってもみなかった」

くすくすと蓮二が照れたように笑う。

「俺は、一目見た時からお前が好きだったんだ」
「む……それはいつの話だ」
「こちらに引っ越してきた時の事だ。……もうラケットを握ることもない、と思っていた俺の目に飛び込んできたのがお前だった」

それは暗に、テニスをやめようと思っていたという事だろうか。
そう問うと、頷きが返された。

「貞治とペアを解消して、ダブルスは終わった……だが、お前と相対してみたいという気持ちがを俺を動かした」
「だが……あのチョコレートは、」
「チョコレートがどうした?」
「その男に贈るつもりだったのでは……ないのか」

蓮二が軽く声を立てて笑う。

「今更だ。俺は貞治に恋愛感情を抱いていたわけではないし、俺はお前が好きだと言っただろう」
「では……誰に」
「……お前に決まっているだろう?」


足を止めて、まっすぐに俺を見る蓮二。
その瞳には一点の曇りもなく、偽りもない。
思い上がりだと笑われてもいい。
今、その視線が雄弁に俺を好きだと語っている。
俺は言葉を返す代わりに、握った手に力をこめた。

「もう一度言う、蓮二。俺はお前が好きだ、…付き合ってくれ」
「……ああ」


夕闇に、二人の影が長く伸びる。
繋いだ手はもう、決して離しはしない。



END

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