朝焼けの館
□桜の愛し君
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「どうした弦一郎、何か考え込んでいるようだが」
「あ……いや、」
否、と口にしたものの頭の中は小さな箱でいっぱいだ。
いつもの帰り道、横顔の蓮二は相変わらず可愛い。
……いや、そうではなく。
これからその顔を曇らせてしまうかと思うと、心が苦しいのだ。
言わなければいい、と俺の中の何かが囁く。
お返しだと言って、ただ渡してしまえばいい。
だが、それでは駄目なのだ。
蓮二が誰かのものになってしまわないうちに、この想いだけは伝えなければ。
ふと、夕暮れの公園が目に入る。
広く整えられてはいるが人影はまばらだ、聞きとがめられる事もないだろう。
俺は蓮二を誘い、足を向けた。
「蓮二、少し話があるのだが……構わないか?」
「ああ、いいぞ」
がらんとしたベンチに座ると、隣に座った蓮二を見つめる。
その姿は少年か、少女か、はたまたどちらでもないのか。
成長前のあどけなさを残した顔も、芯の強い凛とした性格も全部独り占めにしたい。
俺は意を決して、鞄の中から取り出した掌サイズの箱を手渡した。
ありきたりなデパートの包装を押しつけられ、蓮二がきょとんとする。
「なんだ、これは?」
「チョコレートの礼だ。貰った以上は返さなくてはな」
ああ、と小さく呟いて蓮二は合点がいった、といったように頷いた。
「…お返しは考えさせてくれと言っていたが、弦一郎は本当に義理がたいな。ありがたく頂こう」
「いや、それは……」
……義理ではない、と喉まで出かけて言葉がうまく紡げない。
胸の鼓動が速い、幸村と戦う時よりも尚、緊張が走る。
対峙するのは、恋という魔物だ。
「蓮二」
「なんだ、弦一郎。…何か悩みでもあるのか?顔がこわばっているが……」
「……俺はッ、」
「お前が、好きだ。それは義理などではない、……本気だ。俺はお前を愛している」
げんいちろう、と呼びかけた唇を塞ぐ。
柔らかく、暖かい。
このまま時が止まってしまえばいいのに……泣きたくなるような気持ちで、俺は目を閉じた。