朝焼けの館
□桜の愛し君
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「幸村、なんだこの混雑はっ」
「だから言ったでしょ?」
こともなげに言い放ち、俺を従え幸村はすいすいと人の中を抜けていく。
ここはデパートの地下食品売り場、ホワイトデー特設コーナーと掲げられた場所は、人でごった返していた。
一般的には男が返す日だと聞いているが、大多数が女性なのは何故だろうか。
「ああ、最近は女性に選ばせたり、自分に買う人も多いからね」
そう言いながら、幸村は模擬店のような店を回り、次々に品定めしている。
昨夜告げられた場所には少し驚いたが、聞けば山ほど貰ったチョコレートの礼なのだと言う。
義理だけどね、と笑ってはいたが中には本気仕様があったのも知っていた。
だからといって、口を出すつもりもないし、俺の知ったことではない。
……だが、お返しという言葉に妙に引っかかりを覚えるのは、どうしてか。
一通り目星をつけたらしい幸村は、真田はここで待ってていいよという言葉を残し人の中に消えた。
多少の居心地の悪さを感じたものの、壁にもたれかかって相手を待つ。
一人、二人、…数えきれない程の人が目の前を流れていく。
ふと、一人の女性が手に持った菓子に目が止まった。
会計に差し出されているのは、桜型の……。
思わずその場を離れ、ショーケースを覗き込むとそこにあったのは、四つに仕切られた小さな箱。
「これはなんですか?」
思わず尋ねると物腰の柔らかそうな店員が答える。
「和三盆の砂糖菓子になります。口の中でさらりと溶けますよ」
「…これをください!」
そして、夜。
俺は小さな包みを前に途方に暮れていた。
衝動買いしたはいいものの、これをどうするべきか。
……否、用途は決まっている。
これをどうやって渡すかだ。
桜、菊花、柿に椿。
その和の佇まいは蓮二を思い出させた。
拾ったとはいえ、俺は貰い受け食したわけだから、返さねばならんだろう。
だがどんな顔で、いつも隣に立つ蓮二を呼びとめればいいものか。
さんざん悩んだ後、俺は決心した。
―――告白しよう、と。
もうあの伏せた瞳の、微笑みが見られなくなってもいい。
あまつさえ、気持ち悪いと罵られてもいい。
俺は蓮二が好きだ。
その気持ちをこれ以上、偽れはしない。