朝焼けの館

□桜の愛し君
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その時、不意に携帯が着信を告げた。
滅多に使わんそれの相手は限られていたが、反射的に画面を確認する。

[幸村精市]

そう表示されたのを見て、耳に当てて通話ボタンを押した。

「もしもし」
『あ、真田。明日の放課後付き合ってほしいんだけど、いいよね?』

……選択権はなしか。
幸村の強引さには慣れているので、ああと返答し場所は、と訊ねた。

『それなんだけど……』


珍しく部活のない放課後、校門で待っているとしばらくして幸村が現れた。
いつも蓮二と帰っているせいか、目線が合わない身長差に違和感を覚える。
蓮二の存在に慣れきったこの体。
ていたらく、とはこういう事を言うのだろうか。

「ごめんね、さすがに一人では行きにくいからさ」
「……それで誘うのが何故俺なんだ」
「真田と一緒なら、誰も近寄ってこないだろう?」
「…虫除けのつもりか」
「行ってみればわかるよ」

さらりとそんな会話を交わしながら、電車で繁華街へと出る。
流れる町並み、途切れることのない喧騒。
その中に、いつも隣にいるはずの蓮二だけがいない。

「さ、手早く済ませようね」

そう言ってにっこり笑った幸村に連れて行かれたのは……。



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