朝焼けの館

□桜の愛し君
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その日から一か月。

……本当は、あの日遅く来た理由をずっと問いたかった。
目の前にあるのは小さな包み。
蓮二がごみ捨て場に置こうとしていたものだ。
誰かに貰ったものではない、という奇妙な確信が俺の中にはあった。
帰路こっそりと贈り物を捨てるようなヤツではないし、女子に貰ったにしてはシンプルすぎる。

「誰に贈ろうとしていたんだ、蓮二…」

もちろん箱は答えない。
中身はとうに空だが、包み紙もリボンも捨てられずにこうして取ってある。
咄嗟に何気ない振りをして拾ったが、蓮二の様子がおかしいのには気づいてはいた。
何を気にしているかまではわからなかったが、おそらくはこのチョコレートの処分だったのだろう。
世間では逆チョコなる風習があるらしいが、これはそういった類のものではない。
蓮二の想う相手は、俺と同じ―――男なのだろう。

恋、を自覚した途端失恋とは……皇帝とあだ名される俺も墜ちたものだ。
顔を覆って深く息をはく。


そう、俺は蓮二が好きなのだ。


性別など関係なく、初めてその存在を自覚したときから魅かれていた。
髪も瞳も鼻も耳も柔らかそうな唇も、腕も指も足もその白い肌も、全てが愛おしい。
この腕に抱いて一緒にいられたら、どんな心地がするのだろうか。
世界の誰よりも幸せに違いない。
だが……

その大きな瞳は、誰を見つめている。
ダブルスを組んでいたという幼馴染みか?
見知らぬ男に嫉妬する自分がたまらなく醜く感じ、嫌気が差す。
こんなにも恋とは、人の本性を、奥底をも引きずり出し晒し上げるものなのか?


……胸の奥が刺すように、痛い。



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