朝焼けの館

□愛してるって云わないで
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「柳さん」
くりくりとくせのある黒い髪、勝ち気っていうよりは強気そうな瞳。
そんな彼と目が合った。
「…?」
向こうは俺の顔を知らないみたいだった。
でも俺はかすかな記憶を頼りに、相手を一生懸命思い出す。
「確か、立海の二年生エースくんだよね?」
「そうっす、けど…」
「ええと、名前は…」
うーん、なんだったっけ。
ここまで出てきてるのに、思い出せないや。
それを察したのか、柳くんが助け船をくれる。
「赤也。こっちは山吹の千石だ、挨拶しなさい」
赤也、と呼ばれた彼は俺の目をじーっと見て口を開いた。
「切原赤也っス。どうも」
「俺は千石清純、よろしくね」
……気のせいかな、観察されてる気がする。
なんだか嫌な予感がするなぁ。
こういう時は逃げるに限る。
「じゃあ、またね。柳くん、切原くん」
そそくさと二人の前から退散して、テニスコートを後にする。
俺の背中を追う、視線には気付かないフリをしながら。
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