小説(鋼)

□氷点下の姫君(R15)
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「し、しかし、私などが…」
それでも、狼狽は隠す事は出来ない。顔の表面が熱くなっていくのが解った。
「ランファンだからさ」
リンは囁く様に言い、ランファンの額にそっとくちづけた。
「俺はずっと、ランファンを闘わせてる。女は本来、闘う者ではないだろう?それなのに血筋がランファンを闘わせてる。正直、その事に腹が立ってるんだ」
「ですが…」
ランファンは口をつぐんだ。
ヤオ家に仕える血筋の者として、幼い頃からランファンはリンを守る為の戦闘訓練を受けてきた。闘いの中では、自分が女であるとの自己同一性を忘れてしまう事もある。
しかし、戦場を離れてリンと二人になる度、夜を共にする度、「主」以上の感情を彼に覚えている事を思い知らされるのだ。ああ、私は女なのだ、と。
「お返しさ」
ランファンの肩に、リンの右手が回ってきた。体温が心地良い。
衣服を纏っていない今、二人の距離はゼロだ。そうであっても、身分上の距離が存在する。その事に、ランファンは葛藤を感じていた。
「今まで、俺はランファンに守られてきた。本当に感謝してる。だから俺が皇帝になったら、お前を正室として守りたい。側室を迎えるつもりは無い」
左手を伸ばし、リンはランファンを愛撫する。
頃合いになると、ランファンの唇にリンのくちづけが落ち、数秒の後、ランファンの唇から歓喜が吐き出される。
――二人の距離が、ゼロを越えた。
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