小説(鋼)

□滋養
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「…お待たせ致しました、リン様」
ランファンの声が聞こえ、リンはうっすらと目を開けた。暫く眠りに入っていたらしい。
白い湯気の向こうに、ランファンの仮面が見える。
「あまり料理などしませんので、リン様のお口に合わないかも知れませぬが…」
リンは、ランファンの手元に目をやった。盆に載った土鍋から、湯気が立っている。
匂いで、リンはその中身を判別した。
「…粥か?」
ランファンはこくりと頷いた。
先程も彼女が言った通り、護衛であるランファンは殆ど料理などしない。その彼女が、自分の為に粥を拵えてくれている光景が、リンの脳裏に浮かんできた。やはりランファンは、一人の少女なのだ。
「懐かしいな、昔、乳母が作ってくれたんだ。ありがとう、ランファン。頂くよ」
リンは手を合わせた。
「…でも、ランファンに食べさせて欲しいな」
その瞬間、仮面の奥のランファンの顔が、一気に赤く染まるのが判った。
「…はい、では…」
ランファンはややぎこちない手つきで匙に手を伸ばした。しかし、リンの熱い手がそれを制す。
「仮面を外してくれないか?そのままだと…ね」
ランファンは、数秒の躊躇の後、顔から仮面を外した。その表情は、案の定であった。
その表情のまま、ランファンは匙で粥を掬い、ゆっくりとリンの口に運んだ。
「…よくできました」
口に粥が残ったまま、リンはランファンに顔を寄せ、そのままくちづけた。

その後、ランファンが熱を出したのは言うまでも無い。


END
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