小説(テニプリ)

□あめあめ坊主
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僕の部屋の窓から外を見る英二を、僕は恨めしげに見ていた。
外では、雨が降っている。一向に止む気配は無く、勢いは増していく。
「雨、上がんないにゃあ…」
案の定だった。英二は、この天気が不満で仕方無いのだ。あどけない彼の事だから絶対そうだろうと思ってはいたが、実際耳にすると胸に寂しさが立ち込めた。
僕は…。
「なぁ、不二」
英二がくるりと僕の方を見た。
「ん?」
「ちょっと、ティッシュ頂戴」
「どうしたの、一枚でいい?」
「箱ごと貸して。あとサインペンと輪ゴム」
そう言って手を伸ばす英二に、僕はティッシュの箱と、机の引き出しから出したサインペン、輪ゴムを手渡した。
「何するんだい、英二」
「てるてる坊主作るの。雨上がれー、って思って」
その言葉に、僕はつい溜息を吐き出してしまった。
「あれ、どうしたの?不二」
僕は思ってしまったのだ。このまま雨が降り続けば、英二と一緒の時間を伸ばす事が出来る、と。
僕は英二が好きで、英二は僕が好き。そのことは、強く理解しているし、自信もある。それでも、この無邪気な子猫の様な英二は、気紛れすぎるのだ。
気が付くと英二は、僕の目の前で箱からティッシュを引っ張り出し、てるてる坊主の作成を始めていた。
――後でお叱りという事にさせて頂こうか。

「――出来たっ」
やがて、ティッシュのてるてる坊主の顔の上を踊っていたサインペンが止まった。
「ほら不二、見て」
英二の手の中のてるてる坊主が、僕の方を向いた。
――その顔は…泣いていた。
「どういう事?」
僕は、英二に尋ねた。
「あめあめ坊主」
にん、と英二は笑った。手に持っているあめあめ坊主の表情とは全く逆に。
「だって、雨が上がらなかったら俺、長くここにいれるじゃん?」
――全く、本当に英二は気紛れだ。
「しょうがないな」
僕は、英二にキスをした。いつもより強く、優しく。

雨が止む気配は無い。


END

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