小説(テニプリ)

□猫じゃらし
1ページ/1ページ

「な〜大石ぃ、最近不二があんまり構ってくれにゃいんだけど」
「えっ?」
試合間近のある日、英二がいきなり切り出した。
英二が不二と付き合っていることは最早テニス部全員の知るところで、俺も英二から色々と話を聞いている。
今回は、不二があまり相手にしてくれないというのだ。
「…英二、もうすぐ試合なんだから仕方無いだろ」
「え〜、でもぉ」
英二が口を尖らせた。
猫の様に甘えん坊で寂しがり屋の彼は、よくこんな風に駄々をこねる。それでも今はどの部員も練習に励む時だ。英二もその例外ではないが、やはり彼は彼だ。
俺は、ふっと息を吐いた。
「今はみんな頑張り時じゃないか。試合が上手くいったら、不二もまた遊んでくれると思うぞ」
次の瞬間、尖っていた英二の口が、にんっと横に開き、彼の大きな目がぱっと輝いた。
「そっかぁ!」
英二が拳をぎゅっと握った。
「じゃ、俺たちも頑張ろう!俺、走ってくる!」
そう言うなり、英二は笑顔でだっと駆けだした。
――やれやれだな。
「大石、ありがとう」
横から、声がした。
「…あ」
そこには、いつの間にやら不二が居た。
「…絶対試合で勝って、また楽しませて貰うよ」
不二が言った。鼻歌を口ずさみながら校庭を軽やかに走る英二の背中を眺めながら。
「…そうか。わざとか?」
「うん、寂しがらせといた後に遊んだ方が僕も楽しいから」
不二が微笑んだ。
――本当に、やれやれだ。
「――集合」
少し先で、手塚の声がした。
不二は早歩きで俺から離れる。
そして英二は、急ブレーキをかける様に立ち止まると、くるっと方向転換して駆けていった。


END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ