小説(テニプリ)

□君に願いを。
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「ん〜、全然星見えないなぁ…」
英二は僕の隣で目を凝らし、窓から隙間無く真っ黒に塗り潰された空を見上げている。
今日は、七夕。
「願い事出来ないじゃんかぁ」
英二が不満げに空から顔を反らし、僕の方を見た。
「…織姫と彦星、今頃デート中かにゃあ…」
僕は玩具を買って貰えない子供の様に拗ねる英二に言った。
「寧ろ、彼らにとっちゃ好都合かもね」
「へ?」
英二が目を丸くする。
「一年に一度しか会えないのに多くの人に願い事されて。今日みたいに曇って願い事届かない方が、二人もゆっくりデート出来るんじゃない?」
それは、昔から何となく思っていたことだった。
織姫と彦星は一年に一度、七夕――今日だけしか会うことを許されないと言うのに、その日はあちこちから願い事が彼らのもとに届く。折角の二人の時間をかき乱されて怒ってるんじゃないか、って僕は思っていた。
「そっかぁ…でも、そうかもね」
英二がしゅんとした。
「じゃ、俺、不二に願い事するっ!」
「…え?」
いきなり満面の笑みを見せた英二に、僕は驚きを隠せなかった。
「何を?」
僕が訊くと、英二がぷくっと頬を膨らませた。
「不二の馬鹿」
僕は少し面食らった
「解ってるくせに。それに、絶対不二も同じこと考えてるもんっ」
…ああ、そうか。
もう僕達は、夜空が晴れることなんて望まない。
今夜、英二は僕に、そして僕は英二に願い事をする。
二人共、同じことを。
僕達は、願いを叶えてくれることを信じて、曇り空が覗く窓に背を向けキスをした。


END

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