小説(テニプリ)

□ショコラ・キス。
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水溜まりに氷が張る程に寒い、冬の真ん中のある日。不二周介と菊丸英二は帰り道を共にしていた。
「寒いにゃあ…」
菊丸が、手に白い息を吹きかけた。
「うん、早く帰って暖まりたいね」
不二が言った。
すると菊丸は、不機嫌な子供の様に頬を膨らませる。
「え〜?『早く帰って…』だなんて言わないでよ〜、不二ぃ!」
むぅ、と言う菊丸のその姿に、不二は思わず吹き出した。
「ぷ…、ごめんごめん、英二」
「もうっ、俺は不二と一緒にいたいんだからねッ」
唇を尖らせる菊丸の頭を、不二は親が幼い子供にするかの様に微笑みながら撫でた。そうすると菊丸は、てへっと笑った。
「あっ、そうだ!」
菊丸がパンと手を叩いた。
「そっちに曲がった所の公園にさ、自販機あるじゃん?あそこで温かいもの買って飲もうよ」
満面の笑顔を溢れさせる菊丸。不二もその提案に賛同し、二人は回り道をして公園に向かった。

公園に着くと、すぐに菊丸は自動販売機へと走っていった。そして鞄から財布を出して小銭を抜き出すと、自動販売機に流し込み、迷わずにココアのボタンを押した。
「へへっ。ほら、不二も。早く飲もうよ」
ココアの缶を握って笑う菊丸に急かされ、不二も小銭を入れて少しだけ迷った結果、ブラックコーヒーを買った。
「えっ?不二、ブラックコーヒー飲めるの?」
菊丸が目を丸くした。何せ彼は、通学鞄に必ずお菓子を忍ばせておく程の甘党なのだ。
「うん。慣れれば結構美味しいんだよ。最初はたっぷりミルクと砂糖入れて飲んで、回を追う毎に減らして慣らしたらいいかもね」
コーヒーの缶を取り出し、不二は微笑みながら言った。
「じゃあ英二、あのベンチで飲もうか」
「うんっ」
二人はベンチに腰掛け、缶のプルタブを押し上げた。
不二が缶に唇をつけないうちに、菊丸はぐいっ、ぐいっ、とココアを三口程飲んだ。甘ったるく温かい液体が、喉を流れていく。
「はぁ〜。やっぱりココアはいいにゃ〜」
菊丸が顎の下をくすぐられた猫の様な表情をする。
「じゃあ」
不二が言った。
「頂きます」
――菊丸の唇に、不二のそれが重なる。
甘く甘く、これまでの中で一番温かいキスだった。
「御馳走様」
不二がそっと言った。
「もう、不二ったら」
顔を赤くして笑う菊丸に、不二はもう一度くちづけた。

END

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