小説(鋼)

□苦無
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婚礼の宴が終わった大広間に広がった静寂の中には、若い皇帝と、「后」になったばかりの女が二人きりで残っていた。
「ランファン」
皇帝が、妻の名に愛おしさを込めた。
「はい、リン様」
なりたての皇后が、夫を見つめる。
皇帝が言った。
「長かったな」
本当に、長かった。
玉座を得る為に遥か西の国に旅立ち、そこで出会った人々と禍々しい者たちとの闘いに身を投じる事となったのは、もう数年前になる。
多くの血が流された、酷い闘いだった。その闘いの中で、自らの左腕と祖父を失った娘がいる。
その娘は今、皇帝の隣に座っている。あの時着ていた黒装束を脱ぎ捨て、艶やかな婚礼衣裳を身に纏って。
身分上は臣下にすぎないランファンを正室に迎え、側室は一切娶らないということは前から決めていたが、易々と今日まで辿り着けた訳では、勿論無い。
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