小説(鋼)

□羽化(R18)
1ページ/4ページ

――こんな感情は、初めてだった。
くちづけの後、甘い衝動に負け、彼女を押し倒した。
組み敷かれたランファンは、今まで見せた事の無い瞳で、リンを見つめている。
リンには、自分に向けられるランファンの想いが偽りでない事は解っていた。彼女が、自分の命令を拒む事が出来ない事も。
決して、慰み者にするという訳では無い。
「朝が来るまで、俺を主と思わなくていい――。いや、思うな」
「リン様…」
ランファンの唇から零れた名は、あまりに愛しげだった。
「命令だ」
リンがきっぱりと言った。
「――はい」
ランファンが頷いた。その瞳に、うっすらと膜を張って。
リンは、再びランファンにくちづけた。二人の唇は、深みへと嵌っていく。
唇を重ねたまま、リンはランファンの襟元に手を伸ばす。衣の下の体が、ビクンと痙攣した。
一旦、唇に距離をとり、リンはランファンの髪を結った紐を解いた。白布の上に、黒髪がはらりと広がる。リンにはそれが、蝶の羽化の様にも見えた。
「本当に…いいんだな?」
リンは目の前の少女に問い掛けた。
「――はい」
顔を赤らめ、ランファンが答える。やや怯えの混じった声ではあったが、彼女が絶対に嘘をつかない事を知っているリンは安堵を覚えた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ