小説(鋼)

□信 ―Ranfun side―
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気紛れなあの人。
気付いた時には、見失ってしまう。
それを、何度繰り返した事だろう。

その背中を、もう見失いたくない。

「――ランファン?」
その声で、はっと我に帰った。
私の額が、鼻先が、唇が、彼の背中にあてがわれていた。そして両手の指は、彼が着ている服の生地を、強く握り締めていた。
慌てて詫びて少しの距離をとり、俄かに熱を纏った自分の顔を両手で覆い隠す。涙が出そうになった。
――程無く、全身をぎゅっと包み込む感覚。私は、彼に抱かれていた。
「大丈夫だ。行こう」
私は彼の目から視線を反らさずに、頷いた。

二人で部屋の扉を出る。
そして、向かう。この国の、深い場所へと。

苦無を持つ手に、ぎゅっと力が入った。

「どこまでも従います、リン様」

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