小説(鋼)

□昴
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窓を大きく開けて外を眺めているうちに太陽は姿を消し、紺と紅が交わる。やがて、一つ、また一つと、紺色の中に小さな光が灯り始めた。
「ランファン」
リン・ヤオは隣に腰掛ける少女の名前を、そっと呼び、空を指差した。
リンの指先を辿り、ランファンは天頂の近くを見上げた。そこでは、幾つかの星が群れを為す様に輝いている。
「昴、だよ」
リンが教えた。
「昴…」
ランファンが繰り返す。
「あの星の群れをまとめて、そう呼ぶのですか?」
「そうだよ。面白いと思わないか、ランファン」
ランファンの問い掛けに、リンは微笑みながら答えた。
「一つじゃない、幾つもの星が群れを為して、それらが『昴』となる」
リンは、日没後には似つかわしくない、昼間の青空を仰ぐ様な目で、昴を見上げていた。
「俺と同じさ」
呟きに似たリンの言葉にはっとしたように、ランファンは昴から目を外し、リンを見た。
リンの目はまだ、昴に向いている。
「――王は、民が在ってこそ存在する。だから民との絆が無くてはならない。俺は、そう思ってる」
その節々にどれ程の確信と望みが込められているかは、ランファンにはよく解った。
「はい」
ランファンは優しく、しかし強く頷くと、再び昴を仰ぎ、祈る。いや、信じる。リンがいずれ、この国で最も高い場所に座ることを。そしてその時、玉座を見上げる者たちは彼らの王を信じ、王もまた、彼らを信じるのだろう。
「お慕いします、リン様」
リンは微笑むランファンを見つめ、その手を握った。


END

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