小説(鋼)

□滋養
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護衛に守られた扉の奥で、リン・ヤオは火照る体を寝台に横たえていた。
どうやら、錬金術大国のアメストリスについて深夜まで調べていた無理が祟ったようだ。
父である皇帝の為に賢者の石を手に入れ、やがては自分が玉座を手に入れるという一心で書物を読み漁っていたら、いつの間にやら体温が上がり、体もだるくなっていた。
民族同士の陰謀が絡み合う宮殿の中で、自分が生き残る為に無理はしてきた。命を狙われる事も少なくはない。しかし、今回は未来の玉座の為とはいえ、自分一人で夢中になった結果が風邪だ。やれやれだ、と思う。
激しい咳が出た。
「リン様!?」
バタンと大きな音を立てて扉が開く音と同時に、少女の声がリンを呼んだ。
「ラン…ファン」
入ってきたのは、護衛役の少女、ランファンであった。寝込んでいるリンの命を奪おうという者が現れても闘う事が出来る様に鎧を纏い、顔を仮面に隠している。とはいえ、リンにはその仮面の下の彼女の表情が判るのだが。
「無理をなさるからですよ」
ランファンが言った。
「調べ物は私や祖父に頼んで下されば良かったですのに…」
ランファンの声には悔しさが滲んでおり、リンは、彼女には心配をかけてばかりだ、と思った。
「すま…ッ」
ない、と言おうとしたのだが、咳に言葉を阻まれてしまい、後には続かなかった。
「…リン様、暫く、お待ち下さい」
ランファンは呟く様に言うと、慌てて部屋を出た。咳の苦しみで狭まった視界から、黒い後姿が消える。
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