夢の舞台へ

□6.届かない言葉
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6.届かない言葉(Side:Goro)

ツーツー…
と、無機質な音が通話が終了した事を伝えてくる。
「んだよっ…!」
苛立ちに任せて携帯をベッドに投げつけた。
寿也が心配で苛々する。
忘れたはずの痛みがずっと胸を苛んでいた。
「…っクソ!」
下唇を噛み、意味もなく吐き捨てる。

コンコン、と控え目なノックがした。
返事をする気にもなれずドサリ、とベッドに横たわる。
躊躇うような間の後にゆっくりと扉が開かれた。
「吾郎…この記事…」
遠慮がちに入ってきた薫の手には、あの週刊誌。
「…ああ。さっき電話したよ。」
投げ遣りに答え、目線を天井に戻す。
今は薫と話せる気がしなかった。
一緒にいたら寿也への想いを気付かれそうで怖かった。
「…行ってきなよ、寿くんの事、気になってるんでしょ?」
優しい声音と共に、ベッドの縁が沈んだ。
「なんで…」
なんで行きたいと思っていたのがわかったのかと、上体を起こし、薫を凝視する。
「何年吾郎を見てきたと思ってるの?」
野球バカなあんたは、キャッチャーとして支えてくれていた寿くんが大好きでしょ、と優しく薫が詰る。
「気付いてたよ、昔から。」
振り返り穏やかに薫が微笑んだ。
「…っ!」
綺麗な笑みに息を飲む。
なんと返していいかわからなかった。
「行っておいで。」
困惑しきって黙りこんだ俺の手に諭すようにそっと手を重ねてくる。
「…サンキュ。」
それくらいしか言えずに、肩口に顔を埋めた。
母親なんだ、とぼんやり思いながら。





飛行機の予約を取り、荷物を詰め、慌ただしく飛び出して、アメリカへ、寿也の元へと急いだ。
逸る心を抑え、苛々する気持ちを宥めながら。



空港からタクシーで駆けつけた寿也の家のインターホンを力任せに押す。
記事から時間が経ったおかげか、記者が張っていたりはしなかった。
「はい…って吾郎君!?」
扉を開けた寿也は目を見張って唖然としている。
「…なんで?」
寿也は顔を俯かせ、尋ねてきた。
「…心配だったから。」
本心は言えるわけもないので、とりあえず尤もらしい理由を口にする。
もちろん嘘ではないし。
「だからって…普通こんなとこまで来る!?」
相変わらず俯いたまま、意味がわからないと言うように寿也は頭を振る。
「まぁ…気にすんなよ。それより…本当に眉村と…?」
巧い言葉も見つからず、とりあえず話を戻す。
「…吾郎くんには関係ない。」
寿也は俯いたまま目を合わせようとしなかった。
「…人と話す時は目を合わせましょうって習わなかった?としくん?」
苛立ち、思わず揶揄するような口調になる。
その言い方に寿也は思わず顔をあげた。
「っ…これでいいだろ!」
睨むような寿也の目に。
うっすらと膜が張っていたのに言葉をなくした…。
「…本気…なのか?」
だとしたら、俺は間抜けだな、なんて思いながら問う。
「だから、吾郎君には関係ないだろっ!」
寿也の悲痛な叫びに何故か違和感を覚えた。
だって、本気だとしても違うと言えばいいし、…遊びでも違うと言えばいいのだから。
関係ないという返答に内心首を傾げた。
「…本気なら、止めない。」
考えた末出たのはそんな言葉。
本気じゃないなら、眉村から奪う。
とは流石に言えなかった。
「…止めるも何も、吾郎くんにそんな権利ないんだよ?」
返ってきたのはそんな距離のある言葉で。
正論すぎる言葉に、絶句した。
俺の言葉はもう届かないのかと、悲しくなった。
そんな俺に、何故か寿也は泣きそうに笑った。
――――――――――
長い…(-.-;)
でも順調に進んでいるので、あと2話で終わるかも…!?←
10話以内には収まるのでどうぞ最後までお付き合いくださいませ…。

3月31日 桜

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