雷の煌めき

□愛していた、
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「不動!」
帝国の皆とサッカーした後、ドリンクを飲んでいる不動に鬼道が声をかけた。
「鬼道。久しぶりだな。」
いくぶん皮肉っぽさの抜けた笑みで、不動が応える。
不動の言う通り、二人が会うのは1年ぶりくらいだった。
「…そんなふうに笑えるようになったのか。」
自分の知らないところで、知らない間に…と、少し鬼道は寂しくなった。
「うっせ…源田がうるさかったんだよ…」
拗ねたような口振りで、不動は円堂と談笑する源田を顎で示す。
「ああ…源田は世話焼きだからな。」
様子が目に浮かぶようで、鬼道は苦笑した。
「おかげで佐久間に睨まれたぜ…」
笑い事じゃない、と不動が疲れたような表情をする。
「随分と表情豊かになったものだな…」
皮肉るように鬼道が言った。
「…何?源田に嫉妬してんの?」
珍しいものを見た、といった表情で、不動は鬼道に尋ねる。
「っ…」
頬を染めて鬼道は目を逸らした。
「可愛い。」
言って、不動は相好を崩した。
「…うるさい。」
今度は鬼道が拗ねたような顔をする。
「…そういえば、お前、帝国に入るだけの金はどうしたんだ?」
話しかけた目的を思い出し、鬼道が話を変えた。
「ああ…」
物憂げに目を伏せ、不動は語り出す。
「FFIが終わって、帰国したら…影山から手紙が来てたんだ。『帝国学園への入学手続きは済ませておいた。学費も全額払ってある。』って内容だった。それと、しばらく生活できるだけの金が…」
話を聞いて、鬼道は目を見張った。
「総帥が…俺にはなんの連絡もなかったのに…」
寂しそうに鬼道は言う。
「…鬼道宛のもあった。」
気まずそうに不動が言った。
「なんで…」
何故早く渡してくれなかったのだ、と鬼道が言う前に。
「影山が、鬼道が許してくれないかもしれないから、って。それに、渡したらまた…泣きそうだから。」
悪かった、と不動が謝る。
「…いや。ありがとう、心配してくれて…」
鬼道はゆるゆると首を振った。
「…手紙、持ってきてるから。」
くるり、と不動が踵を返した。


「ん。」
不動が差し出した封筒には整った字で
『鬼道へ』
と書かれていた。
懐かしい筆跡に、鬼道は胸を詰まらせた。
「…総帥。」
呟いて、鬼道は封筒を受けとる。
微かに震える指で封を開け、手紙を読み始めた。



全て読み終わり、鬼道は俯いて膝をついた。
ぽたり、ぽたりと涙の雫が地面を濡らす。
不動が無言で、鬼道の背をそっ
そのまま不動は鬼道を抱きよせる。
鬼道は不動の胸にすがって暫く忍び泣いた。





―――すまなかった。お前は作品などではない。私がサッカーと同様に愛した、ただ一人の人間だ。…愛していた。


<終>



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