花園

□紫陽花〜辛抱強い愛情〜
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雨は、嫌いだ。
あの日から…。
               

雨は、きらい。
三蔵が、つらそうだから。

         紫陽花〜辛抱強い愛情〜

西への旅の途中、三蔵一行は雨に降られ、町に止まる事となった。
取れた部屋は、二人部屋で、三蔵と悟空、悟浄と八戒となっていた。
三蔵は、一人で部屋にいて、悟空は、悟浄と八戒の部屋にいた。
「…雨、早く止んでくれないかな。」
降り続く雨を見て、ため息と共に悟空が呟いた。
そのあまりにも沈んだ呟きは、悟浄も軽口を叩けないほどだ。
「…悟空は、紫陽花、好きですよね?」
唐突に八戒が尋ねた。
「うん、好きだけど…?」
質問の意図が良く分からない、という様子で悟空が答えた。
「紫陽花は、梅雨に咲く花です。だから、晴れた日も綺麗ですけど、雨の日のほうが綺麗じゃないですか。」
八戒が微笑みながら、言った。
「…そう、かも。」
瞬きして、悟空がうなずく。
「でしょ?雨の日も、悪くないと思いませんか?」
そういった八戒に、
「うん!ありがと、八戒!」
と言うと悟空は部屋を出て行った。

悟空の去った扉を、八戒は少し困ったような表情で見て、呟く。
「…まあ、僕も雨は、苦手なんですけど、ね。」
そう呟いた八戒を、悟浄は何も言わずに背中から抱く。
胸に回された腕にそっと触れ、
「…紫陽花の花言葉って、“辛抱強い愛情”だそうですよ。悟空に合うと思いません?」
と八戒が言うと、
「そうかもな。」
と言い、悟浄は微かに笑った。


「三蔵、これ。」
悟空がそう言って差し出したのは、紫陽花。
「…何だ?」
いきなり声をかけられ、三蔵は少し驚きつつ、訊くと、
「あじさい。八戒が言ってた。あじさいは、雨に濡れてるほうが綺麗だって。
 だから、雨も悪くないよね。」
と言って、三蔵に紫陽花を渡す。
「長くは持たないだろうけど…。外に出るのがいやでも、これなら見られるでしょ?
 俺は、三蔵が雨が嫌いで、つらそうだから雨が嫌だった。
 でも、外にはこんなに綺麗なものがあるんだもん。三蔵にも見てほしい。
 だから、雨が降ったら、探して、見つけて、見せるから。
 ダメだって言っても、絶対やるからね!」
一息にそう言って悟空は、三蔵の小指に自分の小指を強引に絡め、
「約束。」
と言って不敵に笑った。

いつか自分は、この笑顔に負けることになるだろう。
三蔵はそう思ったが、不愉快にはならなかった。

悟空はいつか、その愛情で三蔵を包むだろう…。



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