花園

□淡く儚い春の幻
1ページ/2ページ

「桜って、すぐ散っちゃうよな。」
西への旅の途中、宿をとった町で悟空が拾ったばかり頃と同じことを言った。
あの時も、散りゆく桜を見ては切なげな顔をして、
「なんでこんなに綺麗なのに、こんなに早く散っちゃうんだろ…」
と言っていた。
その時の悟空の切なげで、どこか寂しげな顔は妙に印象的だった。


今夜の宿では二人部屋で、夕食の後は各々部屋で過ごしていた。
三蔵は一服しながら新聞を読んでいて、悟空はベッドに横になっていた。
と、不意に悟空は起き上がると不安と驚きの混じったような表情で
「さ、くら…」
と呟き、部屋を飛び出した。
三蔵は出て行ったときの表情を怪訝に思い後を追った。


悟空は町で一番大きな桜の木に近づくと大きく枝を伸ばす桜を見上げた。
「…悟空」
声がして、木の陰から長い金髪の男と、軍服で短髪の男と、白衣で眼鏡をかけた男の三人が現れた。
「…だ、れ…?」
知っている、と思うのに思い出せないことをもどかしく思いつつ尋ねる。
「……お前は今、幸せか?」
悟空の質問には答えず、最初に声をかけてきたらしい、金髪の男が尋ねてきた。
なぜそんなことを問われているか分からなかったが、答えなければ、と思った。
「うん、幸せだよ。」
そう答えると、何故か急に泣きそうになって思わず俯く。
「……そうか。」
そう言われ、頭を撫でられた。
堪えきれなかった涙が一粒零れた。
「…ありがとう。おれ、全然憶えてないけど…、でも、どこかで会ってる…。すごく懐かしい気がする。」
そう言うと頭を撫でていた手がはずされた。
すぐに顔をあげたが、もうそこには誰もいなかった。

「悟空」
後ろで三蔵の声がして、悟空は振り向くと同時に三蔵に抱きついた。
「…三蔵、俺今、幸せだよ。でも、少しだけこうしていさせて?」
三蔵の胸に顔をうずめて悟空は言った。
三蔵は何も言わずに悟空の背に腕を回した。

悟空が見たのは、散りゆく桜が見せた儚き幻―――――



→アトガキ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ