花園
□約束連鎖
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ある春の夕食時―――。
「すごく綺麗なんだよ、その桜。ちょうど満開。…あ、でももう散り始めちゃってた。咲いたばかりなのに、もったいないよね。」
少し寂しそうに悟空は言った。
「ね、今度一緒に見に行こう?」
悟空は、そういうと再び箸を動かし始めた。
「ねえ、三蔵。今ちょっと抜け出せる?」
執務室の窓から悟空が顔をのぞかせたのは翌日の2時過ぎ。
普段は仕事のときは執務室に来ないので、何の用かと尋ねると、
「桜が、満開なのは今日までな気がするんだ。」
と答えた。
それだけのために抜け出し、後で僧達に小言を言われることを考えると、面倒だと思い断ろうとしたのだが。
悟空の表情は僅かに不安そうで。
何故か一人で行かせてはならないと思った。
「やっぱ綺麗だよな、桜って。」
そう言って桜を見上げる悟空の横顔は寂しげで、儚げで。
風が吹けば桜の花びらと共に舞い散ってしまいそうだった。
「…何がそんなに不安なんだ?」
そんな考えを打ち消すように三蔵が問うと、悟空は驚いたような、困ったような表情をして、
「なんで分かっちゃうのかな…」
と言った。
「隠せるとでも思ったのか?」
すべて表情に表れるのに?
「…何が不安なんだろうね」
ひらひらと舞い散る花びらを眺めながらポツリと悟空が言った。
「…一人になることが怖いんじゃねえのか?」
悟空の声なき声に耳を傾けて、尋ねてみる。
「…そうかも。」
そう言って悟空は微苦笑した。
「ねえ、三蔵。また来年も一緒に桜を見られるかな…?」
桜を見つめ、悟空が尋ねてくる。
「…見られるだろ。」
同じように桜を見つめたまま答え、悟空の手をにぎる。
「…約束?」
つながれた手を見る目も、尋ねる声も微かに震えていて。
三蔵は悟空を引き寄せ、抱きしめると
「約束してやるよ。そのかわり、取り消させねえぞ。」
と言った。
それは、一緒にいられるという事。
悟空は安堵したように
「うん、約束。」
とうなずいた。
巡るときの中で、永遠なんてないだろう。
それでも、その約束を毎年交わしていけば、それは互いが願う限り、続くだろう。
数年後。
「今年も、約束。同じ場所では無理だけど、来年も一緒に桜を見ようね。」
桜の頃に交わした約束は、二人を繋いでいた。
→アトガキ