花園

□散華
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散っていく…
たくさんの、花びらが。
たくさんの、大切な思い出が―――。


「…ぅ。悟空!」
声をかけられ、目を開くと、紫暗の瞳と視線がぶつかった。
「さん…ぞ…?」
なぜか三蔵が心配そうな顔をしていたので、何だろう、と考えながら起き上がると、
「うなされていた。」
と仏頂面にもどり、言われる。
「…なんかね。すごく…すごく哀しい夢を見た、気がする。…よく覚えてないんだけど。」
 そう、とても大切な人たちがいた気がする…。
 なんで、憶えてないんだろう
 大切だったんじゃないの…?
俯いて考え込んでいると、不意に抱き寄せられた。
「…さん、ぞ…?」
きつく抱きしめてくる腕に戸惑っていると、
「……そんな顔、するな。」
絞り出すような声で三蔵が言った。
「え…?」
 どういう、意味?
「そんな、何もないような顔するな。哀しいなら、泣きたいならいつもみたいに泣け。で、また笑え。」
 お前には、それができるだろう?と、頭を撫でられると涙があふれてきた。
 憶えてないことが、哀しい。
 きっと大切だったのだろう人たちを、思い出せないことがつらい。
 思い出したい。たとえそれが哀しい記憶でも。

声も上げられずに泣き続ける俺の背を三蔵はずっと撫でていてくれた。


  大切な記憶のかけらは。
  桜の花びらと一緒に舞い散って。

  また、新たな記憶が。
  桜の花びらと一緒に心に積もっていく。







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