蒼水の零
□熱帯夜症候群
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「久しぶりに部活動に出るなぁ。みんな元気にしてたかなぁ。」
華恋はあくびをしながらふらふらと歩く悠哉に呆れている。
「もぉ、サボってばっかじゃみんなに顔忘れられちゃうよ!」
世界中どこ探し回ったってそんな影が薄いやつほとんどいねぇよ。
「…………お〜〜〜〜い…」
ん?
遠くから女の子の声がする。
「……待ってぇ〜〜〜〜」」
悠哉と華恋はそれを聞いてやっと立ち止まる。
廊下をタンタンと軽快に走る音と共に女の子の声は段々と近づいてくる。
振り返ると、長く伸びる二つの三つ編みを垂らしている女の子が両膝に手をついて肩で息をしていた。かなり辛そうだ。
「あ、時雨!!」
華恋が急に叫ぶから耳鳴りがする。
「二人とも呼んだのに何もなかったかのように歩いて行くんだもん。走って来ちゃった。それより氷室君、部活動に出るの久しぶりだよね。まぁそれは前からだったけど……」
彼女の名前は神崎 時雨【しぐれ】。
俺と同じ2年でしかも水泳部。
第一印象はとにかく暗そうなやつで話しかけづらかった。
まぁそれは極度な人見知りなだけであって今では軽く会話も交わせるようになってるけどな。
あとは……綺麗な黒髪でよく見ると意外と可愛いんだよなぁ。
「悠哉っ!!どこ向いてんの?……ていうか今すごいヤバい顔してたよ。」
危ない危ない、ちょっとイケない所まで妄想してた……
「ほら、部活行くんでしょ。氷室君も由衣ちゃんも早く行こう。今日はミーティングなんだよ。」
時雨がそういうので歩き出す。
今日はミーティングか……
じゃあ行く意味ねぇじゃん……まぁいいか。
そんな自問自答を繰り返している間に部室の前へと来ていた。
扉を開ける……
すると部員は既にみんな集まっていて、コーチも来ている。
「おい、お前ら!!おせぇぞ!!早く座れ!!」
コーチが叫ぶ。
クソうるせぇな。
口には出して言わないけど。
急いで俺らは部員の後ろに並んで座る。
並び終わったのを見たコーチは、よし、全員揃ったな。と言って話し始める。
「今日お前らに集まってもらったのは大切な話しがあるからだ。手短に話すからよく聞け。実は急に明後日から三日間、離れ島にある施設で合宿を行うことになった。」
部員がざわめいている。
「合宿……?……しかも離れ島で……?」
「わざわざ離れ島でやる必要あるのかよ?……」
「え〜!!、私友達と遊ぶ約束があるのに……」
一通り騒いでも落ち着かないのでコーチが静かにしろ、と叫んでまた話し始める。
「明日で夏休みの課外授業も終わりだ。そろそろ次の大会に向けて本格的に動き出さなければならん。それでこの合宿はいい機会だ。この合宿を通じて更なるレベルアップを図る。何か異論のあるものはいるか!?」
この鬼コーチに逆らえるやつは誰もいないだろ。
「それじゃあ明日は合宿の準備で忙しいだろうから部活は休みだ。解散!!」
そう言うと、みんなはぞろぞろと部屋から出て行く。