蒼水の零
□熱帯夜症候群
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「………まぁこんなことがあったんだけど、色々大変だったんだよ」
これまでの経緯を力説する悠哉。
その話をゆっくりと整理しながら聞く麗。
「なるほど……つまりお前らはディアースを探索中にピサロとクルーゼという謎の組織のものたちと戦い、更にアッシュとかいうものに……協力してもらった……」
麗は深く悩んでいるようだ。
「結論を言えば……悠哉、お前は役立たずということか。」
グサリと純粋かつ繊細な胸に突き刺さる言葉だ。
「そう……かもな……」
異様な空気が流れる……
部屋の中には由衣がお茶を煎れる音のみが聞こえてくる。
「ねぇ、さっきからなんの話してんの?新しいゲームの話?」
聞き覚えのある声がどこからか聞こえてくる。
「だ…誰ですか…?」
由衣がその声の方向へと語りかける。
「あ…つい声出しちゃった。どうしよう……」
生徒会室のロッカーの中から小さな声が聞こえた後、ゆっくりと扉が開く。
「か…華恋!!お前そんな所で何してんだ!!」
「いや……あの…悠哉が最近部活にも行かないで何してんのかなぁ…て思って…」
華恋は申し訳なさそうにロッカーから出てくる。
「お前いつからそこに……」
もしかして最初から今の話を聞いてたんじゃあ……
「じゃあさっきの話も聞いてたのか?」
悠哉はそう言ってから由衣と麗の方を見るが、少し焦っているようにも見える。
「うん、バッチリ聞いてたよ。新作ゲームの話でしょ?」
それを聞いて俺は拍子抜けした。
まさかあんな話を聞いてまだゲームの話だと信じ込むなんて……
流石は超ド級天然娘…朝比奈 華恋……侮れないな。
「おい、悠哉……そいつは誰だ?」
「あぁ……こいつは俺の従姉妹で…朝比奈 華恋っていうんだ。まぁ学年は俺と一緒で2年だけどな。」
それを聞いて麗も自己紹介を始めようとするが、それよりも先に華恋が話し出す。
「河原木 麗さんに、その妹さんの由衣ちゃんでしょ。よく知ってますよ。美人姉妹が生徒会の副会長と書記をやってるっていうのはこの学校の自慢、いや誇りと言っても過言ではないですからね。」
いや…過言だろ。
由衣も麗も、あまりの華恋のテンションの高さに少し苦笑いである。
「あ、もうこんな時間だ!!…そろそろ部活行くぞ!!」
これ以上の雰囲気に耐えられなくなった悠哉は華恋を急いでその場から連れ出す。
「え…でもまだ話したいことがたくさん……」
お前に話したいことがあってもあの二人はむしろお前と話したくねぇよ。
そんなことを思いながら急ぎ足で部室へと向かって行く。