reborn

□クリスマスキャロルの頃には
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メリークリスマス!
という訳で、クリスマスをダシにして一本。

ザンチア前提のスクチア。ザンチア、スクチア共にピンクあり。
ザン様は強姦魔。ランさんは廃人一歩手前。
色々アイタタなクリスマスですみません。


警報<陵辱・暴力・嘔吐・鬱・R指定的表現>


チア視点。
人を慈しむ事は、嗚呼、こんなにも。







「ぁ…っ、ああっ!」


ビクリと大きく体が跳ねて、長い一瞬、意識が飛んだ。
手錠の重苦しい音、ベッドの軋み、そして己の汚らしい嬌声。
何もかもが交差して、涙になって一筋流れた。

達する瞬間は、いつも、苦しい。


「…チッ…てめぇのザーメンで俺の服が汚れた」

「…す…まな、…い…」


赤い目が睨む。オレを突刺す。
足りない酸素の中で、必死に言葉を吐き出し詫びる。


「どうしてくれるんだ?あァ?」

「すまない…、…弁償、する……」

「弁償するだと?…ふざけた事ぬかすんじゃねぇよ。…大体、」

「う、ッ!!」


鈍い音を立てて頬を殴られる。
口の中に広がる鉄の味。ベッドシーツに、ぱたぱた落ちる。

朦朧とする視界、それでも俺の首に伸びてきた腕は見えた。


「…誰が勝手にイッていいっつった?」


首にかけられた手に力が込められる。
思わずシーツを握り締めた。


「ぅあ、…あ…!」

「俺が許可する前にイくんじゃねぇよ…カスが」

「ッか、は…!ザ…ン、ザス…」

「…何度教えてやれば理解するんだ、貴様は…」

「く…っ…あ、」

「もう一度だけ教えてやる…俺の許可無く出すな。判ったか?」

「わ…かっ、た…!…から、…ッ許…」



このまま息の根を止めてくれないか、
そう言えたら、きっと楽になれるのに。





クリスマスキャロルの頃には





初めてザンザスの暴力で血の味を知ったのは、
覚えている限りだと、半年程前のことになる。

殴られ、蹴られ、拘束されて犯される。
半年間も何をしていたんだと、オレは自分をわらう。


それでも最初は、…出会い、初めて体を重ねた頃は、
ザンザスは優しかった。
彼のセックスは決して穏やかなものとは言えなかったが、
ザンザスはオレを好きだと言ってくれ、オレもザンザスが好きだった。

柄ではなかったけれど、お互いを恋人だと思っていた。
少なくともオレはそうだった。
しかし今考えると、そんな温い感情を持っていたのは、
最初からオレだけだったのかも知れない。


いつからか、ザンザスはオレを力任せに抱くようになった。

オレを組み敷く手つきは荒く、抵抗すると殴られる。
やめてくれと懇願すると腹を蹴られる。
手錠に足枷、体の動きを封じ込められ、自由は無い。
それがだんだんエスカレートして、オレは逃げる術を知らず、
今日この日も、また繰り返されている。


ふいに自宅に赴かれ、あるいはザンザスの部屋に呼び出され、
記憶が飛ぶ寸前まで殴られるか、犯されるか。
強姦なんて言葉は、女ではないから使いたくない。
しかしきっと意味合いはその言葉のままなのだと思う。
逃げ出さないのは、オレにその資格があるのか判らないから。





「…帰るのか」


コートを羽織ったザンザスに、ベッドから上半身を起こして、小さく声を掛ける。
シャワーを浴びた後の彼の髪はまだ濡れている。


「てめぇじゃ役不足だからな」

「………」

「最初から女共のとこに行きゃ良かったぜ」


ザンザスは振り返らないまま、答えた。

ザンザスはオレの知らない女を抱いている。
そういう女性が何人いるのかは判らないが、
一度、ザンザスがオレのこの部屋に、女を一人連れこんだ事がある。
突然の事にオレは驚いて何も言えず、そのまま二人は寝室に入って行った。
髪の長い、綺麗な女性だった。


「すぐ意識飛ばしやがって…つまんねぇんだよ、カス」

「………」

「今度最中に気ィ失ったら、そのまま殺す」

「……すまない」


汗が引いた体が冷えて震えている。
ザンザスが帰ったら、シャワーを浴びよう。体が動けば。

息をついて視線を投げる。
ふと、壁に掛けてあるカレンダーが目に入った。


「(………。)」


そして初めて、今日がクリスマス・イブだと気付く。

オレは熱心なキリスト教徒などではないし、
クリスマスという行事に何か特別な思い入れを感じている訳ではない。

…それでも、


「…ザンザス」


玄関に向かって歩き出していたザンザスがゆっくり歩みを止める。
オレは一つ呼吸をして、震えそうな声を振り絞った。


「…明日の、クリスマス……一緒に、過ごせるか…?」


自分でも呆れる女々しいセリフを、何故だか必死に声にした。

クリスマスとその前夜には、素晴らしい奇跡が起こる、
そう聞かされ、目を輝かせた幼き日の自分。
聖なる日に胸をときめかせ、『奇跡』を待ち望んだあの頃。

今やオレは、そんな話を頑なに信じる程、幼くも、清純な人間でもない。


「……駄目…だろうか…」


ただ、今だけは、縋りたい気持ちで一杯だった。
縋らなければ何かが途切れてしまう、もしくは既に途切れた何かが
永久に戻らなくなってしまう、そんな気がした。


「…ランチア」


名前を呼ばれて、顔を上げる。

赤い目の冷たさに、寒気がした。


「…まだ殴られ足りねぇのか?」

「ッ!?そんな…、違う!」

「いいぜ、望み通りにしてやる」

「ザ、ザンザス、やめ、!」


左頬を思い切り殴られ、倒れこむ。
そして息を吐き出したのと同時に、ギシリとベッドの音を立てて
ザンザスがオレの上に馬乗りになった。
名を口にする余裕も与えられないまま両手で首を締められて、視界が涙で揺れる。


「…貴様にはいちいち腹が立つ」

「く…ぁ……ッ…!」

「クリスマス?一緒に過ごす?」

「…ザ………、」

「…虫唾が走る…!」


体重をかけられ、咽が潰れそうになる。

意識が飛びかけて、先程のザンザスの言葉を思い出した。

『今度気を失ったら、そのまま殺す』。

そして涙ながらに耐える。
結局まだ命が惜しいのかと、どこまでも生き汚い自分に吐き気を覚えた。


「いいか、ランチア…」

「くぁ…っ、…」


ザンザスの低い声…


「…馬鹿な自惚れは身を滅ぼす…」


骨に響いて、心が痛い。




ザンザスはゆっくりベッドから離れて、振り返らず、言葉も発さず、出て行った。


虚無感とも哀惜とも劣等感とも違っている。


声が出ない程の感情、これは何だ。

それを考えたら世界が揺れて、胃液が込み上げた。
そして次の瞬間、俺は嘔吐した。


数時間前、夕飯として食べた胃の中のものを思い切りもどして、ぐらりと頭が傾く。
意識が朦朧として、目をつぶって、また吐く。


「うえ、ぇ…、げっ、げほッ……」



…耐えられない、そう思った。



「…は……、」


合意の無い性交が辛いんじゃない。
ザンザスが知らない女と寝るのが嫌なんじゃない。
昔の様に優しい眼差しを向けて欲しいと思っている訳じゃない。
穢れた自分にはやはり起こせなかった『奇跡』に、絶望した訳でもない。


「…ふ、っ……ぅ、…」


溢れ出して止まらない、微かな嗚咽を伴うこれは、
寂しさでも、空しさでも、切なさでも、まして憎しみの涙でも無い。


「…っ………愚かな……」


ただ、こんな状態にあっても尚、
まだ期待を仄めかしていた愚かしい自分が、
…恐ろしいほど、悲しかった。
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