読物

□3月14日の努力
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「・・・・・お前、前から思ってたけどアホだろ。何だよ、『お前の3倍』って。等身大でもいらん」
「お前にはやらねぇよ!いっそ俺にホワイトチョコレート塗ってリボンでもかけて、『お返しは俺だ!』とかも考えたんだけどな・・・」
「はあ!?」


うっかりその光景を想像してしまい、ブレダは頭を左右に振った。
暑くも無いのに、冷や汗がドッと出てきた。


「今、俺の想像力を呪ったわ!朝から嫌なもん想像させるな!」
「それ、俺の台詞じゃねえか?」
「とにかくドン引きだ!!それやったら、絶対俺友達辞めるぞ!」
「落ち着けって、流石にそれは無いな、と察したって」
「・・・ああ、懸命だな」


長身だし割と顔も整っているのに、どうして恋愛ごとになるとこうも発想が吹っ飛ぶのか。その辺りがブレダの頭を悩ませている。


「確か返す菓子によって意味が違うんだろ?その辺りじゃ駄目なのか?」
「キャンディなら付き合っていい、マシュマロなら駄目、とかってヤツだろ?けどアレは駄目だ」
「何でだ?」
「アレはあくまで、付き合う前の話だ。付き合ってる俺等には関係無い」
「ああ、そりゃそうだな」
「いっそ奮発して超高級チョコレートでも買うかなあ」
「あいつが喜ぶ物なら何でもいいんじゃないか?そういうのは、値段じゃないだろ」
「・・・あいつが喜ぶ物か」


まず、ハボックの脳裏に真っ先に本が浮かんだ。
しかし、一口に本と言っても、ジャンルは様々、種類はそれこそ星の数程ある。


「・・・難しいな。本って言ったって、恋愛とかSFとかミステリーとか歴史書とか、色々あるからな」
「まあ、今から書店のお勧めの本を読んで分析するだけの時間は無いだろうな」
「俺読まないからなぁ〜ボインの写真集なら詳しいんだけどな」
「悪い事は言わん、絶ッ対に止めとけ。それと、さっきから言おうと思ってたんだけどな・・・お前、ヤバいぞ」
「は?何が」
「目の隈」
「そりゃお前、俺がどんだけ悩んでると思ってんだよ・・・3日も徹夜で考えてるんだぜ?」


しかしながら、3日も徹夜で悩んだ挙句、『自分にチョコレート塗ってプレゼント』という案が出てきた事が不思議でならない。
どうしてそれほど頭を悩まして、そんな結論しか出ないのか。
呆れるのを通り越して、いっそ感心してしまう。


「市販のより、やっぱ作ったヤツ貰う方が嬉しいと思うぞ?」
「・・・俺、菓子なんて滅多に作らねえよ」
「だから、滅多に作らない物を、お前が自分の為に作ってくれたとなれば、ファルマンにとっちゃ充分嬉しいんじゃないのか?」
「そうか?」
「お前だって手作りの菓子貰ったら嬉しかっただろ?やっぱそういうのは心がこもってりゃいいんだって」
「そうだなあ・・・よし、じゃあ張り切って作るか!!いつもありがとな、ブレダ。相談に乗ってくれて助かるぜ」
「あまりに哀れすぎて放っておけねえんだよ。材料、仕事の帰りにちゃんと買っていけよ」
「じゃ、今日中に何作るか考えないとな。仕事中に一生懸命考えるか」


今日は、バレンタインデー当日同様仕事が無かった。
これも勿論、お返しに忙しいマスタングが「ホワイトデーに(以下略)」と言って非常に仕事を頑張ったためだ。


「・・・やれやれ。今回は、バレンタインみたいに妙な事が起きなきゃいいけどな」


足早に大部屋に向かうハボックを見て、ブレダは苦笑した。
あれだけ真剣に悩んでいることを知れば、ファルマンだってどんな物をプレゼントされても嬉しいだろうと思った。
例外も、無いとは言えないが。







あっという間に仕事が終わり、一同帰路についた。
ハボックはと言うと、何やら指折り数えながら独り言を呟いていた。


「よ、どうだ?決まったか」
「ん?勿論、バッチリだ。ケーキに決めた」
「へえ、いいんじゃないか。作れるのか?」
「さあ」
「さあって・・・大丈夫か?」
「多分大丈夫だ、さっき中尉に材料とか手順聞いたし、失敗してもいいように材料も大量に買うからな」


そんなに上手くいくだろうかと、何となく一途の不安を覚えつつも、ブレダは親友の背中を見送った。
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