読物

□3月14日の努力
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3月14日。




この日は、平たく言ってしまえばバレンタインデーのお返しを贈る日だ。
もしくは、男性にとっては少々頭を悩ます日。
若い女友達(しつこいようだが、学生に多い傾向らしい)同士でお菓子の交換をしたと言うのであれば、話は別だが。

このお返しの菓子の相場は、大方菓子で返す傾向にあり、菓子屋はここでも色々売り出す。
お返しする男性は、手作りするのではなく、その多くが購入した物をお返しする。
「バレンタインデーのお返しは、3倍返し」等という言葉もあり、お返しを期待しバレンタインに義理チョコをあげたりする現象もある。

この日も別に休日になったりはしないが、全国共通と言っても過言ではないほどのビッグイベントの日だ。
勿論、返される人間にとっては嬉しい事だろう。
贈られる物が、何かにもよるが。






「はぁ〜〜・・・」



そんな男性が頭を悩ませる日の前日に、昼間から盛大な溜め息をついている軍人がいる。
この男も、例外ではないらしい。


「はぁぁ〜〜・・・」
「お前なぁ・・・バレンタインデーの時と同じで、それで丁度10回目だぞ、溜め息」


巡回の最中に溜め息ばかりつく同僚に、1ヶ月前と同じ様にやれやれとブレダは頭を掻いた。


「明日何の日か知ってるだろ?ブレダ」
「ホワイトデーだろ」
「そう、ホワイトデー!ホワイトデーといえば!?」
「大佐が大量のお返しをする」
「そうそう、いつも全員に返すんだからあの人凄いよな・・・って違―――う!展開がバレンタインと一緒じゃねえか!」


丁度1年前の今日も大佐は凄かった。
というより、毎年凄いのだ。

2月14日、つまりバレンタインデーにマスタングはチョコレートを始めとする、クッキーやケーキといった物を女性から大量に貰った。
まるで菓子屋でも始めるのかという程の量で、執務室は菓子で溢れかえった。
ここに居る彼等も、部屋を片付けるのに随分苦労したのだ。
その分だけお返しをするのだから凄まじい。


「じゃあ何だよ?」
「ファルマンから貰ったチョコレートのお返しに決まってるだろ!?」
「まだ決めてないのか?」
「貰った日から今日までずっと考えてんだけど決まらないんだよ、これが。あんな事もあったし、凄ぇ悩んでるんだけど・・・」
「・・・あったなあ」


「あんな事」というのは、バレンタインデーに起こった一悶着を指す。
その日は、ファルマンがハボックにチョコレートを渡し、驚かせるという計画をマスタング達が立てていた。
しかし、前日にファルマンがホークアイと一緒に居た所を目撃され、デートと勘違いされた。
それ以外にも不幸な事にいくつかの誤解が重なり、ハボックが浮気を疑った為、いざこざが起きた。
結局何とかその日の内に誤解は解け、ファルマンからのチョコレートも貰えた。
(詳しくは、「2月14日の攻防(前編・後編)」参照)


「確か貰ったのはトリュフだったんだろ?ビターの」
「そうなんだよ。もうめちゃくちゃ旨くってな!」
「耳にタコが出来るくらい聞いたぞ。で?」
「ちゃんと返すって言い切っちまったしよ・・・3倍返しつったって、何を3倍で返すべきか・・・」


ハボックは、両腕を組むと唸った。



「―――それで考えたんだけどな。『俺』とか」
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