差し上げ物
□例えばこんなきっかけで
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「―――止まれっ!止まらないと撃つ!」
逃げる犯人との差を縮めつつファルマンが大声で叫んだ。しかし、その言葉を聞いても犯人に止まる様子は無い。
「・・・止まれって言って止まる犯人って、滅多にいねえよな」
「分かってます。でも一応は・・・っと!」
言い終わらないうちに、足元を銃弾が掠めた。
「ここ抜けられるとやっかいだな。」
この辺りを抜けてしまえば、人通りの多い場所に出てしまう。
人質を取りかねないから、早く捕まえた方がいいとハボックは思った。それは、ファルマンも同じらしい。
「ファルマン、お前なら分かるだろ?」
「ええ、ここに来るのは別に初めてじゃありませんからね」
「じゃあ俺このまま行くから、頼むな」
「了解しました」
それだけ言うと、ファルマンは建物同士の間の細い道に消えた。
「(あれだけで分かるようになったっつーのは、お互い進歩したよな)」
初めて一緒に仕事をした頃は、お世辞にも冷静とは言えなかった。
今でも実践に慣れたわけではないから、冷静沈着かと言われるとはっきりYESと言えない面もあるのだが。
少なくとも、あの頃とは比べ物にならないくらいに、頼もしくなったとハボックは思っている。
犯人達は、まだ追いつかれていないのを見て、このまま走れば逃げ切れるんじゃないだろうかと思い始めた。
―――その直後、左を走っていた茶髪の男がいきなり前のめりに倒れこんだ。
「!?どうしたんだよオイッ!」
「知らねえよ、いきなり・・・」
「――――――動くな」
2人はギクリと左を見た。
すると左の薄暗い路地から手が伸びて、倒れこんだ男のこめかみに銃口がピタリと当てられている。
同時に足に感じた鈍い痛みに、足払いを喰らって倒れこんだのだと知った。
「いつの間に・・・!?」
男が悔しげに拳銃を離した。
「くそっ!!」
しかし犯人の片割れの金髪の男が路地に向かって拳銃を構えた。
―――直後に、銃声と共に男の手から拳銃が飛んだ。
「追いかけっこはこの辺で終わりにしようぜ」
その声のする方を向けば、既にハボックが追いついていた。
「こ・・・の野郎っ!!」
「おっと」
男はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し、ハボックに襲い掛かった。
ハボックはそれを拳銃のグリップで弾き、開いた左手で頬を殴った。それでもまだ男はナイフを離さず、しつこく食い下がる。
大きく振りかぶり外した後に、ハボックは脇腹に重い膝蹴りを一発喰らわせると、
「しつこい男は嫌われるぜ?」
そう思うだろ?とファルマンに同意を求めた。ファルマンは静かに「そうですね」と返し、笑った。
ハボックは満足そうに笑って、短くなった煙草の火を消した。