姫
□32.水姫〜藍〜
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「準備良し…っと」
いつもの眼鏡を掛け、手には小さな手提げと お土産のお菓子。
お菓子は昨日、たまたま作ったパウンドケーキ。
銀さんは甘いもの好きだから、きっと食べてくれる。
「行ってきます」
誰に言う訳でもなく、癖で言ってしまう。
返事がある筈ないと分かっているけど、やはり虚しい…。
独りで居ても虚しさが募るだけだから、早く出かけてしまおう…。
いざ、万事屋さんへ!
…と意気込んではみたが、玄関に立てかけてある紺色の細長い物が視界に入り、歩き出そうとする足を止めた。
「傘…」
あの日、沖田君から借りた傘。
どうしよう…。
返さなければね。
分かってるよ?
分かってるけど…
どうやって返せば良いのか…。
う〜ん…と頭を捻り考える。
あ、閃いた。
名案とばかりににんまりし、意気揚々と家を出る。
手には藍色の傘を携えて。
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