妹太妹


隠れている、それは第三者から見ればただ木の後ろ側の、大きな影の下で体育座りでぼんやりと座っているようにしかみえないだろうけど、それは違う。
彼自身の折り曲げた膝が胸に当たり、心臓の高鳴りが身体に響く。
「……嗚呼、」
深く長い溜め息を吐いて彼は自身の唇を触ってそっと目を伏せた。


それはある朝、散歩をしていたときだった。何気なくある男に会いたくなったのだ、名は聖徳太子。一緒に旅をした友人だ、
「……太子?」
桜の木が風に合わせて揺れている、一週間、彼の仕事ぶりを観察したとき隠れるのに使った木だ。その木を通り過ぎ、改めて友人の顔を覗き込んでみた。
寝ている、まるで子供のような寝顔。心無しかこの宮殿内が静かだったのも彼が寝ているから…?そう思うと吹き出しそうになってしまった。それでも目を覚まさない彼は口をむにむにと動かしながらごろりと半回転した。斜めに仰向けになった友人はあと少しで落ちそうな位置にいる。
「落ちますよ太子、」
「………」
「太子っ」
「………」
小さな呼吸音。
「………」
身体がふわりと動いて寝ている彼の上に覆い被さった。
「あっ……」
口を押さえ「ごめんなさいっ!」
「………」
走り去っていくのをただただ見つめて、深い溜め息。


「まさか寝込みを襲うとは、な」
太陽の眩しさに思わず目を細めた。「いつもやっていることなのに、」









終わり

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