conclusion
□はーとびーと
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「初バイトきつかったのかねぇ? 大丈夫かな?」
「大丈夫……だと思いますよ」
笑顔で振り返ると、マスターの顔が少し上にあった。
「そうか? ならいいが」
少し不思議そうな顔をしているマスターの横を「片付け片付け」と言いながら通り過ぎようとしたら、
「神田くん」
マスターに呼び止められた。柔らかい笑顔で言われる。
「あの子にお礼、言っときなさい」
何の。
聞かなくてもわかる。
「……はい」
僕は素直に頷いて、エプロンのポケットに入れていたケータイを握りしめた。
無我夢中だった。
ただひたすらに歌った。
自分の気持ちを全て吐き出すように。
多くの人を前にして。
僕は一人じゃないと主張するように……。
そんな僕を見つめるあの瞳に、僕はいつしか吸い込まれていた。
最初は似てると思ったんだ。
でも、違う。
あの子は、あの子。
──あいつじゃない。
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