conclusion
□はーとびーと
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「あの、ライブ!」
急に返事とは違うことを話し出した私に、神田さんは首を傾げる。
「ライブ、すごく良かったです! 楽しそうで、あったかくて、また見たくなりました!」
さっき言おうとして言えなかったこと。
そう。神田さんたちのライブは、やってる本人たちがすごく楽しそうで、見ているこっちまで心が弾むくらい楽しくなれて、
そして、
またここに来たくなる。
だから私はここにいるんだ。あの素敵な瞬間を思い出すために。
私の感想に、神田さんは少し目を丸くして、拍子抜けしたような顔。
変な沈黙一瞬でも長く感じられて、私はお疲れ様でしたとお辞儀してから店を飛び出した。
***
風のように走り去ったあの子の背中が、目に焼き付いたようだった。そして声は耳に焼き付く。
「あれ、明香音ちゃん今帰ったのか?」
そんな余韻に浸る僕の耳に入る、あの子とは似ても似つかない太い声。
控え室脇の部屋から出て来たマスターこと沢村大五郎さんは驚いて目を丸くした。
「えぇ」
出入口を見たまま呟くように答えた。